表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
648/681

第六百四十六話 依頼

*


「さて……」


 何とか人混みを抜け出して、俺は何十枚もの依頼書が乱雑に貼られた掲示板の前にまで辿り着けた。

 しかし、いざ受けようと依頼書を覗いてみると。


 ミノタウロスの討伐、ウルフ系モンスターの群れの駆除、魔王軍の騎士モンスター討伐。目に映るのは、どこを見てもそんな内容ばかりだった。


 選り好みをしている場合で無いのは重々分かっているつもりだ。でも、初めての依頼(クエスト)にするにはどれもこれも物騒すぎる。もっとこう、見るからに初心者向けの物は無いのだろうか。


 目前の難題の数に閉口しつつ、俺は救いを探して更に目を横へと流していく。

 その時、ある一枚の紙に俺の視線が止まった。


「薬草、採集……」


 その紙には、見たことのない植物のスケッチが描かれていた。植物は大きな双葉を持ち、その間から渦巻き状の茎が伸びている。


 スケッチの下には説明らしき文面が書かれている。

 “薬草採集”と見出しのように大きく書かれた文字。その下には詳しい内容が並べられていた。


 採集個数は最低十束。それ以降は一束ごとに五万ターナルで買い取られる。

 報酬は二十万ターナル。薬草の採集場所はバルギルの森。


 ターナル……さっきも料理店で聞いた名だ。多分通貨の名なのだろう。施しでもらった額が三万、料理店で使ったのが一万程度だから……大体日本円と同じくらいの価値だろうか。


 となると二十万ターナルはかなりの額のはずだ。ただの薬草採集でこんなに貰えるなんて、かなりおいしい依頼に違いない。きっと依頼が来たらすぐに取り尽くされてしまうんだろう。だから依頼書も一枚しか無いんだ。


 それならばと、俺はすぐさまその依頼書に手を伸ばした。幸い俺の身長でもギリギリ届く距離で、あともう少しで指先が依頼書に触れそうになった。


 だが、その時。


「おいおい、まさかその依頼受けるつもりか? ひゃひゃっ!」

 

 背後から、俺へ目掛けて唐突に声が聞こえてきた。

 咄嗟に振り返ると、百七十センチ程はあるスラッとした体型の、ハゲ頭がニヤニヤしながら立っていた。


 毛皮の上着を身につけ、頭には大きな傷も付いている。いかにも荒くれ者だ。厳ついというよりも、ずる賢そうな印象が目立つ。


「あの……何か?」


 警戒心が首をもたげ、俺は丁寧な口調で相手も気を荒立てないように問いかけた。

 男のにやけた顔は変わらず。


「ひゃひゃひゃっ! 子どもにゃぁ、ちょいと荷が重いんじゃねえのかぁ? ひゃひゃっ!悪いことは言わねえ、やめといた方が身のためだぜぇ? ひゃひゃっ!」


 上から見下しつつ、笑い声混じりに俺を嘲った。


 見るからに俺を舐め切ったその態度が癪に触り、俺の怒りが沸々と沸き立ち始めていた。


 いきなり現れてこいつは一体何を言ってるんだ? そもそも見ず知らずの人間に何で俺がここまで馬鹿にされなくちゃいけないんだ? 


 そんな言葉が、口から出かかりそうになる。だがすんでのところで理性が働いた。


 ……落ち着け。今この場で争っても仕方が無い。こういうのには関わらないのが一番なんだ。黙って無視して、さっさと出て行ってしまおう。今欲しいのはお金だ。


 依頼書を掴み、掲示板から引き剥がす。一枚の紙を手に握り締めながら、俺はギルドの玄関へと早々に足を運んで行った。


*


「あっ! あんたこんな所にいたのね! もう、探したんだから!」


 ハゲ頭の男にツカツカと歩いていきながら、女は声を荒げる。


「ひゃひゃ……悪い悪い。薬草採集に行くっていう子どもがいたからよ」


「薬草採集? それ本当? なんであんた止めなかったのよ?」


 びっくりした様子で、女は男を問い詰める。


「止めたさ。でも行っちまったよ。まあ、ギルドに来る子どもなんてのも少ねえ。高難度クエストで有名な、あの“薬草採集”を受けるくらいなんだから、相当の実力持ちなのかもしれねぇぜ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ