第六十二話 深淵の炎
『研鑽』……?この膂力も、身体から感じる覇気も全てそのスキルなのか……?
「おっと、言われてしまいましたか。私のスキルは鍛錬を積めば積むほど私自身を強化するスキル。
まあこれだけではただの努力家ですが」
「ぐっ……!」
先程よりもより強い力に押し切られ、私はサラマンダーを手放してしまう。
「ま、まだだ……!『神速』、『変化』、『怪力……ぐぁっ!」
「私の進化に限界は無い」
脚にスキルをかけ攻撃を続けようとしたが、私の腹部へ重い一撃が入る。
倒れるよりも先に回し蹴りを喰らい、私は壁に叩きつけられてしまった。
くそ……砂埃で前が見えない……!
骨が結構折れているけど、これぐらいなら『変化』で……!
身動きが取れるようになったところで、私は横薙ぎに手を振るう。
それと同時に舞い散っていた砂埃が吹きすさび、目の前の景色が明瞭になる。
瞬間、サラマンダーが私の方へ飛んでくる。しかしそれはいつものようなスピードではなく、何者かに投げられたようなスピードで、頭のすぐ隣の壁に突き刺さった。
「そ……そんな……」
全員……やられてる……。
そこにはボロボロになったフレイの人形とネヅの首を持ったホークアイ、そして氷漬けになったウンディーネが居た。
「貴方のお友達が邪魔をしてきましたので、少し眠って貰いましたよ」
その瞬間、私の中で何かが切れた。慈悲とか、情けとか、そういう気持ちが消えていくのがよく分かった。
「……全く動きませんね、でしたら……『アイス』」
ホークアイが指をこちらへ向けると、そこから氷が走るようにこちらへ向かってくる。
目で追えないほどの速さか、その氷が私の目の前まで来た瞬間。
「『精霊剣技・炎淵深淵獄」
漆黒の揺らめく何かが見えた瞬間、その次には向かっていた氷は全て溶けていた。
「私の魔法を防いだ……?フフ、なるほど……」
当然だ。『変化』による周囲の空気のマナ変換、更にそこへ『スキル増強』の重ね掛けでサラマンダーの出力は過去最大レベルだった。
「なら……これはいかがですかね?」
ホークアイは足を踏み込み、こちらへと踏み出す。
瞬歩、というやつだろう、私の目の前はおろか、すでに私の後ろへ回っていた。
「が……ぐぁっ……!」
「『時空転移』……それはこの世界のどこかに捨てられたあった剣達だよ」
ホークアイは自分自身が気づく前に剣で右肩を貫かれていた。『時空転移』の魔法陣を私の周りに囲うように敷いて、どの位置からでも命中するようにしたのだ。
「とどめだ」
私はホークアイを中心に球状になるように幾重にも魔法陣を展開する。
全て石柱を用意済みだ。そして魔法陣は一方的に物理干渉をする……要するにもうホークアイはあそこから出られない。
石柱が顔を覗かせ、ホークアイの顔を塞ぐように魔法陣を灰色に染める。
そして石柱達がホークアイを貫こうと、一気にその姿を現した瞬間。
魔法陣は、全て姿を消した。
……は?な、何でいきなり?さっきまで確かに魔法陣が……。
「相手を侮ったな、ホークアイ」
「なっ!?」
目の前にいきなり人が……!?いや、ホログラムか……?
男の姿を確認することはできず、あるのはシルエットだけだった。
「議長……お見苦しい戦いを見せてしまいましたね。
それと、サツキさん……私は貴方を少し侮っていたかもしれません。次からは、最初から本気でやらせて貰いますよ……」
その言葉とともに、ホークアイとホログラムは目の前から消えてしまった。
逃げられた……!確実に殺る気だったのに……!
私は歯を食いしばり、床を指の握力で削り取る。
「サツキ……あんた四つん這いになってないでってば。ウンディーネを開放してあげたいんだけど」
ああ……そうだった。
「ごめんごめん、今すぐ溶かし……て……」
身体がぐらつく感覚を覚える。まともに立っていられず、意識も朦朧とし始めた。
な……も……もしかして……
マナ……切れ……?