第六百三十話 審判:転生者 その三
「……」
教育課はもちろん何度も聞いた。しかし……追放、か……。
初めて聞く。そもそも追放など、コウヤがするとは思えない。人間性の話ではなく、利害の話として。
私を追放すればその瞬間にでも、コウヤを殺す事ぐらい分かりきっているはずなんだ。
そしてそれが一度始まったら、もうコウヤに私を止める力は無いということも。情報不足のせいで仕込まれてしまったナノマシンブリュンヒルデも二度目となれば決して油断しない。
そうなると、私を追放するという選択肢は消える。
つまりは、もう一つの選択肢が選ばれる。教育課送りだ。これはもう確定だろう。覚悟するしかない。
私自身が教育課で何かされるのは気にならない。しかし気掛かりなのは……皆を一年間も放っておいてしまうことだ。私がいない間にどうなるかわからない。私が受けた仕打ちを、フレイやイレティナが受けるかもしれないと思うと……燃え盛る心の内ですら黒い物に飲み込まれそうになる。
しかし、今の私に現状を跳ね除ける力は無い。とにかく一年間、一年間だ。フレイとイレティナのナノマシンブリュンヒルデを取り除き、サラマンダーとウンディーネの身体を取り戻し、コウヤを殺す。これらを解決する方法を考え続けよう。
その間にフレイかイレティナ、もしくは両方がコウヤの手にかけられる可能性があるかも知れない……。だが、コウヤは二人を殺さない。仲間が殺された時私が何をするか、ホークアイの始終を見ていたこいつなら分かっているはずだ。殺されてさえいなければ、逆転の芽を見つけ出せる。
心の内に焦りや不安はなかった。自分のするべき事を決め、これから受けるであろう苦痛を受け止める。
昂りも恐怖も存在せず、私は己のオレンジ色の瞳を冷ややかに引き締めていた。
それを風景に写したかのように部屋全体の冷気が高まり、金属の地面や壁は鈍く光を蓄えていた。
その中に異質に佇む、黒いローブと球形の機械。
ローブの先の布切れ一枚も動かさず、まるで石像のような佇まいだった。それとは対照的に球形の機械の表面上にホログラムのように浮かび上がる三つの赤い円光は、それぞれが不規則にグルグルと表面上を周り滑っていた。
「転生者、サツキ。君の判決は____」
____。
来る。飛んでくる。コウヤから、私に課す刑の言葉が。
彼が告げた瞬間、きっとあの待ちかねている機械が私を拘束か何かするのだろう。
もう決心もした。覚悟も決めた。何も怖いものは、無い。あるのはこれから苦痛を耐え抜く自分だけ。
____だというのに。
この一瞬、私の背筋に嫌なものが走った。
「____全て、取り消しだ」
「……は?」




