第六十一話 シルクハットがそこには一つ
荒い息を整えながら私は立ち上がる。ネヅに話の続きをさせるためだ。
「仕方が無い……ネヅ、さっきの話の続きをして」
「チッ……分かったよ」
ネヅは不満げな顔をして舌打ちをする。
私がすぐにこっちの話題に移ったのを嫌に思ったのかな……?
「……評議会ってのの全貌まではわかんねぇ。俺は半分利用されているようなもんだったからな……。
だが、これだけは知っている」
「……それは一体?」
私は確実に聞くためにしゃがみ込んで耳を近づけた。
「それは……、っ……!お、お前は……!」
ネヅは私の顔をいきなり見て、まるで蛇に睨まれたカエルのように固まっていた。
……いや、私の顔じゃ無い?こいつは一体何を……
私は振り返ると同時に頭の片側に衝撃を受け、吹き飛んだ。
しかしそう遠くに飛んでいる時間すら今はおしい。壁を出してスピードを落とさなければ……!
「ぐっ……!はあ……はあ……」
「おや?まだ生きていらっしゃったのですか?
うーん……困りましたね。これでは貴方達との約束を破ってしまうことになります。
次会うまではお元気で、と言っていたのですが……まあ捉え方によっては変わってきますからね。
気にしないでいきましょう」
その場にいた全員がその男を除いて沈黙していた。
そこに平穏な空気はなく、静かといえどベッドの上で眠れるような空気ではなかった。
息苦しい、というのがこの場合の言葉だろうか。
しかしシルクハットを被り、鷹の意匠が施されたバッジをつけた男だけは違った。
「な……なんでここに……!?」
その男の名はホークアイ。メルヘリックの王、ミヤビの首を切り落とし、以前この男と会ったときには私達はその場に立っているのがやっとだった。
「それがあなたからの質問ですか?ふむ……簡単な話です。評議会の正体がばれそうになったからですよ。
それで処分に向かうためにここへ来たんです」
「ばれそうになったから……?いや待て、このネヅが情報を伝えようとしたのはほんの数分前。
どう考えても普通の方法では出来ない……!」
私の疑問にホークアイはやれやれと言った表情と仕草を見せるとバッジを指で摘んで私に見せるように引っ張った。
「私達は評議会という一つの存在の手足なのですよ。手一本では何も動かせず、頭だけではその頭脳は行動に移せない。全てあるからこそ成り立つ、それが我々評議会です」
……つまりこの男も評議会の一部、頭脳や足、他にもこいつのような存在がいるのか……?
『未来予知』とか……そういう奴らも……
「さて、身体に出来た癌は切除しなければなりません。悪さをする前に……」
そういうとホークアイは袖口からナイフを取り出してネヅをミヤビと同じく切り落とそうとする。
ナイフが振り下ろされ、ネヅの首が吹き飛ぼうとしたその時。
「……おや?そこに居られると首を切り裂けないのですが……」
「生憎だけど私もどく気は無くってね。少し待ってもらおうか。……ネヅ、さっきの続きを。速く」
嫌味ったらしい笑みを崩さないホークアイに対して私も不敵な笑みを浮かべる。
ネヅはあまり私が長く保てないことを悟ったのか、すぐさま言葉を口にし始めた。
「そこのホークアイって野郎についてだ!奴のスキルは____」
「そこまでですよ」
「こっちのセリフだよ」
ホークアイは姿を消したかと思うとすぐ横にいた。私が防御できないように。
しかし、変化で建物の壁を展開し再び防がれた。
「奴のスキルは『研鑽』だ!努力をした分だけ人の何倍も強くなれる、この世界の人間だ!」