第六百二十六話 異常者への処罰
……いや、この際どんなに傷つけられても構いやしない。
私には皆と、託された想いがある。フレイにはまだこのことを伝えられていないが、帰ったら絶対に伝える。私はもう、何があっても折れないって事を。
だから、この場でコウヤから何をされようが私は耐えられる。
再度、目を見開き前を向く。
目の前を覆う彼の黒い背に、私は鋭い視線を打ち込んだ。
「……それ、で……っ? 私、を……どう、するんだ……?」
体全体を締め上げられるような圧迫感のせいで喉がまともに動かない。
だが挑発的で挑戦的に、私はあくまでコウヤに抗う意思を示す。
意地でもこいつの思い通りにはなってやらない。たとえ教育課に送られようが、フレイ達のところに帰るまでは絶対にだ。
コウヤが、ちらりとこちらを見た。私の言葉のせいか、僅かに冷徹さが増しているような気がした。
冷ややかに鋭く、ナイフのような視線に一瞬体が硬直するが、それまでだ。
大丈夫。やっぱり私はもう挫けない。
その思いが、今確信に変わった。コウヤよりも一層激しい憎悪を煮えたぎらせるブリュンヒルデを横目に、私は声を上げた。
「何、でも……構わ、ない。君の気が、済むようにやれば……っ良い。教育課でも……単純な、暴力でも……」
「っ……!」
「ぐぅっ、ぁっ……!」
私の言葉にブリュンヒルデが目を限界までこじ開けた。
爛々と光を放つオレンジ色の瞳孔が極度に小さくなり、垂れ気味の目が三白眼程まで吊り上がる。
それと共に、身体の表面全てを焼けるような痛みが包み込んだ。
三、いや五センチだろうか。深々と、私を拘束する白い塊から刺が食い込んでいた。
全身に穴が開くとは、こんなにも痛いものだったのか。そう頭の中の理性が自らの状態など他人事のように呟く。だがそれとは真逆に脳全体には大量の痛みの信号が絶え間なく送り込まれ続ける。身体中の、至るところから。
理性が溶けるほどの痛みでは無い。だからこそ延々と最大限の痛みが続いた。我を忘れることなど許されなかったのだ。
「ブリュンヒルデ」
耳にそんな言葉が飛んでくる。しかし、先ほどのようにすぐこの痛みが収まるわけではなかった。
「っ……! 許しちゃ駄目だよコウヤ! こんな風にコウヤを貶めようとする女が、コウヤの守るような人だなんて……」
「分かっている。分かっているからこそだ、ブリュンヒルデ。サツキは最早平穏に生きる人々とはかけ離れている。ならば……それなりの対処というものが在るだろう」
「____。それ、って……」
会話の内容は頭に入ってくる。しかし、その理解に使用する脳の容量はどこにもなかった。
だが次の瞬間、私の脳を焼き続ける痛みは、突如として消えた。




