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第六百二十一話 練られた闘気

 ペンナイフ。

 最も古い時代の筆記具、鷲ペンの加工に用いられたナイフだ。現代の鉛筆のように鷲ペンのペン先も使うにつれて削れていく。そんな時に専用の小型ナイフとしてこのペンナイフが現れた。


 小型で刃は薄く、小さい。懐に入るポケットナイフの始まりもこのペンナイフだ。現代ではあまり見ないし、ましてこの機会都市では鷲ペンどころか、紙の姿さえ無い。


 だと言うのに、何故私の懐にこんな物が……?


 そういえばフレイが二、三日前にナイフでコウヤを刺せばいいと言って、私にナイフを差し出したような覚えがある。彼女が普段から使っていた刃物はダガーだったが、あの時見たナイフは……これだ。


 しかしフレイは結局私に渡せなかった。今このナイフはフレイの懐にあるはずで、私の手元にあるわけが無い。


 不可解で、不気味な事実だ。握りしめる鈍い銀色の輝きが、私の背筋を走ったような気がした。普通の人間ならこんな物はさっさと仕舞ってお守りに持ち替えるか、それとも安全を考えて一度帰るぐらいはする。何せ機会都市の王、評議会議長、世界を支配しようとする転生者との対峙だ。大事はいくら取っても、足りないくらいだろう。


 

 ____しかし。

 しかし、悪寒が身を包み、背筋がじわじわと凍り付いていく感覚を覚えながらも、私は別の感覚を感じていた。


 心臓が破裂しそうなほどに高鳴り、血潮が熱く燃え滾る感覚。それと共に、ナイフを握りしめる力が強くなっていく感覚。


 予想だにしなかった、唐突な武器。一、二撃を入れて仕舞えば、簡単に人を瀕死に追い込めてしまう武器。

 その上、私が使い慣れた刃物の類だ。どのように動かせば良いのかは、『剣豪』のスキルが使えなくとも体に染み付いていた。


 天啓のように思えたのだ。ブリュンヒルデもいなく、油断し切ったコウヤが私に背を向け集中力も無く、作業と会話を並立させているようなこの状況。


 最高と言っても良いこのチャンスに、私は興奮と共に目を見開き、半ば正気を失っているのでは無いかと自分を怪しんでしまうほどに、闘気と殺気を溢れ出させていた。


 殺せる…殺せてしまう……! ここからコウヤを一刺しすれば、簡単に……!


 私は握りしめたナイフを両手で握りしめ、更に強く握った。

 両腕を右脇腹の近くまで移動させる。だが、ナイフの刃先だけは一切変わる事なく、コウヤの背中に狙いを定め続けた。


 骨に塞がれず、内蔵を切り裂けるような位置。肩甲骨と背骨の間の筋肉の層。そこを刺し貫けるように、反動をナイフの柄に込めた。


「フぅ………フぅ……」


 力を込めるにつれて脳が痺れるような感覚を覚え、息が激しくなる。疲労では無い興奮のために、私の呼吸は整っている。


 次の瞬間、私は地面を右脚で蹴り上げた。

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