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第六百十三話 僅かな隙

 途端、背筋に凍てつくような感覚が走り抜ける。本気か、とさえ頭の中で考えていた。

 コウヤは自国民の事を大切にしていると考えていたが、もしそんな事をしようとしているのなら、私の考えは全く違うことになる。


 しかし、彼の言葉の意味を他に解釈する事は難かった。

 

「……コウヤ、君が言おうとしていることは、つまり……」


「ああ。我が機械都市に住う人々、その一部に残存勢力の掃討を頼むつもりだ」

 

 ……やっぱり……。コウヤ、人間を戦わせるつもりだ。

 予見していたこととはいえ、彼がそんなことをするとは信じられなかった。狂った思考をしていたとしても、国民の平和を保つことを信条にしている物だとばかり思っていた。


 しかし、予想外の現実が衝撃となって波紋のように私を揺らす。

 落ち着き払った笑みを見る私の感情に、軽蔑が生まれた時だった。


「……幻滅したよ。どれだけ最低でも、この機械都市に住む国民の安定だけは守り続けると思っていたのに……。君は劣悪な独裁者と、何も違いが無い」


 内に秘めるべきはずの感情が、思わず口をついて出ていた。

 しかし私はそれに危機感を覚えない。コウヤはまた無表情を浮かべるだけだと高を括っていたのだ。


 だが、コウヤの表情に、焦りがあった。


「ま、待て……! サツキ、貴殿は何か勘違いをしているのでは無いか……⁉︎ 俺は民を傷つける気など、毛頭無い!」


 彼は目を見開き顔をこちら側へとはっきりと向ける。その語気は息の含みが激しく、果てには語尾を荒げていた。


 あろうことか、コウヤは焦っていたのだ。


「は……?」


 彼の豹変ぶりに私は困惑のまま何も返せずにいた。しかしそれも一瞬の束の間の内、私は何やら誤解を解こうとしているコウヤの姿を見て、今までとは違う予感を感じていた。


 どういうことだ……? ……いや、これはチャンスだ。コウヤの弱点は、きっと自分の機械都市への対応への批判だ! まだ条件を限り過ぎている感は否めないが……ともかく、これで押していけば何か突破口が見つかるはず……!


 私の胸に確かな希望が芽生え始めていた。フレイもサラマンダーも、ウンディーネもイレティナもいない今、その希望が、私の胸を満たすようであった。


「民を傷つけない? 機械で武装でもさせるつもりか?」


「いや、そのようなことはしないのだが……」


 話の発展のためと思って答えやすい質問をしたつもりだったが、またしても噛み合わない。

 いや、いいんだ。元からこいつはそういう奴だ。冷静に、苛立たないように対処しよう……!

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