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第六百五話 泡沫の想

「……記憶?」


 私はフレイの言葉をそのまま復唱していた。

 信じられない。まさか、とは思っていた。だが私が想定していたのは洗脳だとか、人格破壊だとか……もう少し現実的で対処のしようがある物だ。


 それに……。


「記憶の消去……私達に関わることだけ、って……どういうこと?」


「言葉の通りです。記憶の中の映像に、私たちの姿が少しでも写っていればその記憶ごと消し去られているんです。きっと、誰に問われても記憶に不都合が生じないように、その期間を丸ごと……」


 フレイは目を細くして眉根を曲げながら、イツの方を横目でチラリと見る。

 私も、それと共に彼へと視線を移していった。今度は何処か感づいているのか、考え込むように目を下へと落としていた。


「……はい。確かにフレイさんの言う通り私の記憶は、特にここ数ヶ月の記憶は朧げになっています。まるで自分が自分でなかったかのように、理解できないほどにぼやけてしまっているのです。ただし、どことなく見えたものや会話等を所々……つまり夢程度には覚えているのですが……」


「じゃあ……!」


 彼の言葉に、一縷の望みを得た私の顔がみるみるうちに輝く。

 だが、それをまた理解していたようにイツは哀れむような目をすると。


「思い出せばいい、と?」


「……っ」


 イツの含みがあるような言い方に、私の言葉は出かかったところで詰まる。

 言おうとしていたことを、イツに見透かされた。


 何も言えずに押し黙った状態の中、不意に彼がふっと笑う。


「……それはもう、試したんです。ぼんやりとしたまま放っておく、しかもそれが自分の記憶となれば尚更です。思い出そうとすると、確かに記憶は浮かんできます。……ですが、その記憶が、いつも決まったものなのです。恐怖と、苦痛と、絶望……。この機械都市でそれを得た、と言うことは覚えています」


「……!」


 イツは、そんな感情を抱いたことがなかった。いつだって力が及ばない時も、恐怖、ましてや絶望なんて感じるような素振りは見せていなかった。裏表のない性格からして、感情は露わにするはずだ。


 だが、そんなイツが絶望? 普通なら理解もできないような事だ。


 ……しかし、ひとつだけ私は知っている。教育課だ。コウヤが、イツに何かをしたんだ。


「思い出そうとするたびに記憶が消えるのであまり覚えてはいませんが、身体中から冷や汗が流れる感覚と震えが止まらない身体。私も、これは良くないものだと理解して、やめたんで……サツキ? どうかしましたか?」

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