第六百三話 変質
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「うわぁ……ここがあなたの家なんですね……! 内装はほとんど同じですけど、そこはかとなく空気が違いますね!」
四方に立つ壁を見回して、フレイは目を輝かせる。
木製に見せかけた机、白プラスチックの椅子、すぐ前にそびえるキッチン。量産された見た目よろしく、はっきり言ってまるで代わり映えしない景色だった。
「はは、やはりそう思いますか。……実を言うと、自分としてはまだ掃除に納得し切れていないのです。何せ整理整頓というのは始めたてなもので、手慣れた皆さんには遠く及ばないですよ」
謙遜気味の礼儀正しい言葉遣いをしながら、目の前の男は柔らかく微笑む。
それに対してフレイは「そんなことないですよ!」等と言って彼を褒めだし、彼の方も「敵わないなぁ」だなんて笑って返す。
ごく一般的な、相手を褒め合う社交辞令じみた会話。二人が心の底から言っている点を除けば、その表現に間違いはひとつもないだろう。
しかし、この二人を前にして、私は固まっていた。
そんな私のことを気にかけてか、話の切りのいいところでフレイがこちらへと視線を送り気づいた様子を見せる。
「あれ……サツキ、どうかしたんですか?」
「い、いやあ……な、なんでも……ないよ。うん、大丈夫だ。大丈夫だとも」
そんな私の返答に、フレイと会話をしていた男までもが心配そうに眉尻を曲げる。
「サツキ、気分が悪いのなら施設へ行った方が良いかと……。あそこは娯楽以外にも様々な物が有りますから……」
「い、い、いや、良いんだ。ほんと、大丈夫、だから」
また丁寧な口調で語りかけてくる彼に、いよいよ私は声を出すことすら怪しくなって来ていた。
私の気分が悪い? ああ、まあ考え方によってはそうかもしれない。……ただ、これは病気とか体調を崩したとか、そう言うこととは違う。
私は今、目の前の彼らに困惑しているのだ。
それもそのはずだろう。今フレイと共に私を心配してくれている彼は、全身を白装束で覆い、どこぞの宗教の神父のような雰囲気さえする。語調も丁寧で、今まで出会って来た丁寧語の男達と比べて含みもない。
ここまでなら、私だってそう驚く事は無かった。会って話してはいよろしくお願いしますだなんて言って、さっさと帰っていたところだろう。
だが、彼は私にそうさせてはくれなかった。何故か? ……簡単な話だ。
彼の髪は、赤色をしていた。つい先日まで見ていたあの赤色だ。
私とフレイが彼の家にお邪魔して、今彼と話しているのだ。そう、今目の前にいる、この神父じみた男は____
「……大丈夫、話し続けてよ、イツ」




