第六百一話 奇妙な肉
「ふふ……やっぱり、凄くお腹空いてますよね」
ニコニコとまるで小動物でも見るかのような慈しみのこもった目を向けるフレイ。
目の前の肉を噛みちぎり、口の中で咀嚼する内に幾らか理性が戻ってきて、私は飲み込むと。
「やっぱり? というと何か、私のお腹が空く理由が?」
首を傾げ、消えかけていた疑問を口に出した。もっとも今現在でも、食器は使っているものの肉を切る手が止まらないのだが。
理由を知っているはずのフレイは、あろうことか私と同じように首を傾げ、どういう事かと言わんばかりに目を点にしてこちら見つめる。
しかし、何か彼女の中で合点が言ったのかハッとすると。
「ああ、そう言えば知らないですよね……。サツキ、昨日はずっと寝ていたんですよ?」
「えっ⁉︎」
思わず声を上げた。
昨日ずっと……⁉︎ え、つまり丸一日? 私、丸一日ずっと寝ていたのか? って事は、昨日は何も食べていなかったということか……。
「道理で……こんなにお腹が空いているわけだ……」
「ええ。ですから私も料理をしてみたんです。お腹が空いているサツキに、美味しいものを食べさせてあげたいと思って。機械都市の味気ない食事なんて目じゃないですよね?」
「う、うん……。確かにすっごく美味しい。でも、こんな大きい牛肉……なの? 一体どこで仕入れて来たの?」
フォークで目の前の肉を指し、そのまま突き刺して口へと運ぶ。多少理性的に戻りつつあった頭は、何よりそれを気にしていた。
食べる事自体は全く抵抗はない。今食べている分には毒の効果は感じられず、また機械都市内でのトラブルは大して問題にはならない。皮肉なものだが、この国にいる以上命が脅かされるような事は無いのだ。
何より、フレイが用意してくれて、その上調理までしてくれた物にいちいち警戒する気も起きない。
ただしかし、機械都市内部でこう言ったものは見かけないのも確かな事だ。大抵は加工済みの棒形状だとかシリアルと言った食品になっている。
普段ならちょっとしたご馳走程度の肉も、とても物珍しい物なのだ。
と、そう考える最中のことだった。
フレイの顔が、今目覚めたかのように目を見開いてハッとしている。それと同時に、笑顔も彼女から垣間見えた。
「そうでした! 昨日の事だったので話すのをすっかり忘れていたんですけど、すごい事があったんです!」
「すごい事?」
フレイは私に今から伝えることが余程嬉しいのか、より一層目を輝かせている。
何を言うのかと、待ち構える中、やはりフレイは間髪入れずに私にその驚くべき内容を伝えた。
「イツが、イツが昨日すぐ近くで歩いていたんですよ! 無事、機械都市に入れたようでした!」




