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第五話 作戦決行

「パパー?ママー?どこー?」


 山の中、小さな女の子が歩いていた。

 それを見つけた盗賊はギラギラと目を光らせている。


「お嬢ちゃん、どうしたんだい?迷子なのかい?」


「ええ。道に迷っ……コホン、うん、迷っちゃったの」


「そうか……そうだ!

 お嬢ちゃん、お父さんとお母さんが来るまでお兄さんと一緒に待っていないか?」


「ほんと?やったぁ!」


 盗賊と女の子は手をつないで、住処の洞窟へと入っていく。

 入る間際、女の子はこちらへうんざりとした顔を向けていた。


 ごめんねフレイ、必ず助けるから。




『そこをだね、フレイに見た目相応の人間の女の子を演じてもらうんだ。

 それで、見張りの気を引いてもらう。』


『え、それはちょっと……私色仕掛けなんて……』


『別に色仕掛けなんてする必要はないさ。賊なんて欲求不満に決まっているんだから』


『えぇ……』




 見張りは穴へ入り、道は開けた。

 それを確認し、私はイツに合図をする。


 そしてイツは穴へと潜り込んで行く。


 さて……私も動きますか。






「お頭、お頭ー!」


「うるさいぞ……宴の最中だ」


 お頭と呼ばれた男は仲間に囲まれ酒を煽りながらこちらを睨んで来た。


「もちろん承知でごぜえやす!けど、見てくだせえ!女でさ!」


 そう言いながら私の腕を引っ張り、その男に見せた。


 他の賊からもおお……と言う声が漏れてくる。


「女か……まだ小さいが、上玉ではあるな」


 男は私の顎を掴み、顔をこちらに寄せる。


 う、うぅ……臭いし不潔……。

 でもサツキが言っていた通りにしないと……。


「お、お兄ちゃんやめてよー!」


 必死の抵抗で、私は暴れる。


「はあ……これだから餓鬼は……いや、待て。お前まさか……!」


 そう言うと、男は私の髪をいきなり掴んだ。


 それにより、私の耳が露わになってしまった。


「やっぱりな……。

 さっき暴れた時にちらっと見えたんでまさかと思ったが……お前エルフだな?」


「くっ……!」


「え……お頭、それってどう言うことっすか?」


「こいつは自分の意思でここに来たってことだ!

 お前は利用されていたんだよ!」


「そーいうこった!ここまで案内させてもらって感謝するぜ!

 フレイ、もう行っても大丈夫かー!?」


 賊たちのだれの声でもない声が洞穴の中に響く。


 賊たちはたじろぐが、その(かしら)だけは(くう)を見据えていた。


 それを確認して私は。


「準備万端です!思いっきりやっちゃって下さい!」


 私の指示と共に、賊たちはバタバタと倒れて行く。


「ぐぁっ!」


「な、なんだ?うっ!」


 そしてあっという間に残った賊は頭だけになっていた。


「その素早さ……イツか?」


「久しぶりだなあ、頭」


 懐かしげに、それでいて悪戯げな声が空から響き、突然イツが現れた。


 イツは持っていたダガーを指先で器用に回しながらホルダーにしまう。


「お前は気配遮断のスキルを持っている上に素早さもケタ違いだった。

 うちの新たな希望の星、そう俺は思っていたが……」


「俺は賊を抜けた。

 ギルドでシーフとして働く方が稼ぎも良かったし、

 あそこでは俺を褒める奴がここより何人もいた」


「……それでも、ここは幸せだったんじゃないのか?お前はここでは笑っていたじゃないか」


 それを聞くと、イツは鼻で笑い。


「俺はあんたを殺しに来たんだぜ?そんな俺が本気であんたらを仲間だと思っていたとでも?」


 頭はため息を一つつき。


「……もういい、何も喋るな」


 瞬間、イツは懐に飛び込み、喉をかっ切ろうとする。

 しかし、頭はそれをなんなく躱し、飛び出してきた腕を掴む。


「くぅっ……!」


「イツ、戻って来ないか?まだやり直せる。俺はお前に全ての望みをかけていたんだ」


「へへ……御免だ、ねっ!」


 頭はもう一度イツに問いかけるが、逆に油断した隙を突かれ腕を叩かれ、逃げられてしまった。


「……!イツ!」


「『ファイア』」


 呼びかけた時、頭の後ろから炎が飛び出し、道を塞がれる。


「……誰だ?」


「ただのギルドの人間、いや……世界を救いに来たわけだから救世主か?

 まあ、どっちでもいいさ。あなたのスキルと首、頂いていくよ?」


 膝まで掛かった長い黒髪、それを一層際立たせる白を基調とした服、サツキであった。


「ずいぶん言うじゃねえか。だったらこっちも問答無用で……!?消えただと!?」


「いやー、イツ先生からスキルについて聞いておいて良かったよ。

 こいつはかなり有用だ」


「!?」


 サツキは、すでに頭の後ろに来ていたのだ。


 そして地面を思い切り踏み、地が揺れた。


 一瞬、頭は体勢を崩してしまう。

 サツキはその一瞬を見逃さずパンチを繰り出した。


「ジャブ、アッパーカット、ストレート」


 その華奢な身体からは想像できないほどの豪烈な拳は(かしら)を簡単に吹き飛ばしてしまった。


「ぐぉ……!?」


 頭は壁に叩きつけられ、地に伏せる。


「見た感じ君のスキルは気配感知……。イツ先生とは相反する力。

 無いものに憧れを持つのは、人の性だからねえ」


 サツキは倒れた頭まで歩を進め、しゃがみ、完全に侮った体勢で、見下ろすようにして姿を眺める。


 頭も、最早反撃する気にはなれなかった。

 ここまでの実力差を見せつけられてしまったのだから。


「……くそっ」


 静かに、彼は愚痴をこぼした。

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