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第五百八十七話 判決2

「……」


 しばらくの間王は大柄な男が消えていったドアを見つめ続けていた。夜の冷えた空気が僅かに部屋へと流れ込み、王の頬をゆっくりと通り過ぎて行く。

 

「……後は、私一人という事ですか……」


 残った小柄の男だったが、何故だか恐怖を見せるような雰囲気は片鱗も無い。ため息を吐きながら投げやりに、しかし口元に微笑を称え、体は機械に封じられているというのにまるで綿の中に包み込まれているかのように安らいでいた。


「……思えば、彼女と出会うまで私は抜け殻のようでした。何をする訳でもなく、ただ平凡に、誰に何を言うことも言われることも無く、やりたいことも無い……。ふと気付けば国は滅んでいて、それからまもなく皆が移動する波に飲まれるまま移動し……ここでも、結局何をしたい訳でもありませんでした」


 ゆっくりと、囁くように男は語る。先ほどまで見せていた狂気的な笑みは憑物が落ちたかのように消え去っていた。


 それに対し王は背を向け続ける。閉じたドアを眺める姿勢から一切変化を起こさず、反応は無い。

 最も男の方も大して王の反応に興味はなかったようで、淀みなく言葉は紡がれ続ける。


「ですが……その時だったんです、彼女が現れたのは。初めに見たときは大通りで演説でもするかのように通り過ぎてゆく人々に語っていました。私もその中の一人で、何を言っているんだ? きっと憐れな人なのだろう、と視界に入った彼女をそう断定し、演説だけが耳に入ってくる頃にはすっかり興味を無くしていました」


 男はこの時、自分で語る記憶の風景を明確に思い出していた。

 整った風景に似つかわしく無い埃まみれの木製の箱に乗り、自分が本当の王だとでも言うほどの自信に溢れた彼女の姿を。高らかに、そして怒りと希望が伝わってくるような叫びをあげる彼女の声を。


 彼女は貧相な身なりの服を身につけ、バラバラとした雑な切り方の毛先を肩に掛かるくらいまで伸ばしていた。その外見は普通に暮らしている人ならば、不潔と口を揃えて言うようなものだ。

 

 だがそんな彼女に対して、男は視界に入った時に不潔と感じた他に、もう一つのことを認識していた。

 それは、彼女のどこまでも澄み渡るような真っ直ぐとした目だった。


「……そんな彼女を毎日目にしてはや数ヶ月。ある日、夜も遅い時に彼女が私の家にやってきました」

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