第五百七十二話 不死の恐れ
コウヤは、それを聞いて目を丸くする。
「驚いたな、もう少しヒントが必要と考えていたが……」
「いや、ヒントなら今までたくさん貰ってきていた。今私がやっとそれに気づいたってだけの話だ」
「ほう……」
コウヤは面白い物でも見るかのように私をまじまじと見ながら、ゆったりちした様子で茶を口へ注いでいく。
「……して、貴殿はそこから何を考えた? 怯えているようだが、何故怯えているのか知りたい」
私はコウヤの言葉に咄嗟に顔を上げる。
やはり、そこだろう。確かに彼の言う通り私は今怯えている。身体に震えとして現れているわけではないが、表情から簡単に読み取られてしまう程度には。
何故、私が怯えているのか。老いない転生者に一体何を怖がっているのか。
「ふむ……自分の四倍は生きているであろうこの俺を脅威に感じているのか?」
「……違う」
ポツリと、私は返答する。コウヤもさほど意外というような反応ではなく、妥当な結果と踏んでいるようだ。
数秒考える仕草を見せると、また私に目を合わせ。
「となると……神の事がますます分からなくなった事か?」
神……そう、未だ詳しくは知り得ない創造神と破壊神。
確かに元々疑いの中には入っていたし、転生者の寿命を延ばしたのも神であろう。そんなことをする理由が分からず、怪しいと感じている……というのは正しい。
実際それは頭の中にあるのだが……。
「それも……違う」
それは怯える理由ではない。分からないだけでは怖いには及ばない。
コウヤは、不思議そうな顔をして顎に手を当て考え出す。
しかし数十秒間時々唸りつつ考えた挙句、どうにも分からないようで顔を上げた。
「うーむ……分からんな。ブリュンヒルデ、一緒に考えてくれないか」
「いいよ! サツキがほかに怖がることって言ったら……えっと……」
窓脇でたたずんでいたブリュンヒルデに声をかけ、こちらへと手招きする。
ブリュンヒルデも待ってましたと言わんばかりにコウヤの元へと機械の身体をこすり合わせながら歩んでくる。
その姿を見て、頭の中に皆の姿が思い浮かんだ。
フレイ、イレティナ……それに今は拘束されちゃってるけど、サラマンダーとウンディーネ……。
……皆……。
「っ、む……」
「うーん……死ぬ事が怖いのかな? それとも____」
「待てブリュンヒルデ」
唐突なコウヤの静止に、ブリュンヒルデは「んえ?」と驚きの混じった間の抜けた声を上げる。
それを横目に、コウヤは私の顔をまじまじと眺めてきた。
「な、なにさ……」
「待て、表情を変えるな。今の表情、今の表情だ。怯える理由が見えたぞ」




