第五百五十七話 中枢
精霊ブリュンヒルデ。そうコウヤに呼ばれた者は、閉じていた目をパチリと開けると。
「わあ! 皆さん揃いも揃いだね! フレイちゃんにサラマンダーにウンディーネにイレティナちゃん! それにサツキも!」
あまりにも無邪気に、私達を目にしてぱあっと笑顔を輝かせる。
しかし、それとは対照的に私たちの表情は恐れと警戒の入り混じったものとなっていた。
ブリュンヒルデ……? コウヤにも精霊がいたのか……。精霊のマナを操る力は凄まじい。気をつけないと……。
「ブリュンヒルデ……さ、さっきコウヤが言っていたことはどういう意味ですか……? あなたが、機械都市の中枢って……」
「そのまんまの意味だよ。外の機械も、入国の時のマナ抜き機械も建設途中の場所で皆を案内しようとした歩兵機械も、全部私が動かしていたんだ。コウヤと一緒に皆の姿を見ながらね」
まるで悪気がないように、ブリュンヒルデは機械の身体をガシャガシャと動かしながら平然と話す。
だが、言っていることは何一つ普通ではない。特に……。
「見ながら……? 一体どうやって……」
私たちの周囲は、この機械都市に入るまでは機械の数も少なかった。観察するための機械などがありでもしたら、すぐにでも目に映るはずなんだ。なのに、私たちはそれを目に映すどころか、気づきすらしなかった。
だが、ブリュンヒルデはそれすら気にも止めることでもない様子だった。
「それはさ、ほらこうやって」
ブリュンヒルデがそう言いつつ指先を動かすと同時、フレイの背中から何かが飛び立っていく。
飛び立っていくものは非常に小さく、私からでは小さな点にしか見えなかった。
だが、その点は確実にどこかの方向へと向かっていき、ある場所に止まった。そこは、ブリュンヒルデの指先だった。
「っ……まさか!」
「分かんなかったでしょ? 超小型機械でね。名前は蝶々囑槑って言うんだ。コウヤがつけた名前なんだけど……」
ブリュンヒルデは何やら話を続けているようだが、最早私にそれを聞いている余裕は無かった。
こんな米粒にも満たない、ほんの粒子程度の機械まで作れるなんて……。段々分かってきたぞ。私の体内に入れられたものも、つまりは……。
……駄目だ! 流石にスキル無しでブリュンヒルデに立ち向かうのは無理がある……! 彼女がこの国の中枢だって言うのなら、きっと私達を追いかけてきていた機械だって、私達に攻撃を加えようとしたあの壁の機械だって簡単に呼び寄せられてしまう!
身体の痛みなど、最早気にしている暇はなかった。
「皆! 早く逃げるよ!」
そう言って私は皆のもとへ駆け出そうとした。とにかう、今は皆と一緒にいたかった。
しかし。
「ブリュンヒルデ、誰も聞いていないぞ。ちゃんと対策はしておけ」
「あれ? あっ、いけないいけない。えいっ!」
その会話が後方から聞こえた瞬間、私の身体は再び壁に打ち付けられた。




