第五百五十話 通り道
数多ある施設は、古くは全て偉大なる王の物だった。その中でも、賢き王は図書館に好んで入っていた。遂には、最上階と図書館の間に道を通した。
その文章に目を通し、私はバッと後ろを振り向いた。もちろん本棚が眼前に映るが、決して景色がそこで終わるわけではない。バリケードのように私達を囲う本と本の隙間から、僅かに、近くの景色が見える。
他の場所は隅まで明かりが灯り埃ひとつない空間となっている。だが、私が好都合と思って選んだこの場所だけは、蜘蛛でも出そうなほどに暗い。それが今、逆に私の疑問を増させていた。
「……」
皆はそれぞれに読み耽り、私が何を読み何を思っているのかまだ気付いていない。私は更に本を読む。
その、道は____
「……」
最後の一文を読み終え、私はパタリと本を閉じる。先程までと同じように、また一冊読み終えたという雰囲気だった。
だが、私は次の本には手を出さず、むくりと起き上がった。
「……? サツキ、どうかしたんですか?」
フレイが真っ先に私の異変に気づき、顔を上げる。
だが……見せた方が早いだろう。私は、近くにあった小ぶりの辞書程度の本を手に取り。
「ふんっ」
私の真上の天井へと放り投げた。
「は……⁉︎ サ、サツキいきなりどうした、ん……」
私の行動に目を見開き、辞書の行方を探ろうとフレイは上を見上げる。だが、言葉と共に彼女の動きはそこで止まった。
ウンディーネも、イレティナも、それを見上げて唖然としている。目の前にあるこれは、何なのかと。予想もしていなかった状況に困惑すら覚える事を忘れていた。
サラマンダーに灯される天井は、暖色の光に当てられ柔らかく光っていた。だが、そこに無機質な黒い正方形が現れている。正方形はサラマンダーの光を受けずに、ただただ暗い、底知れない何かを持っていた。
「これは、通り道だよ」
「え?」
フレイは困惑の声を上げた。が、私は言葉を続ける。
「本に書いてあった。この図書館にだけあるたった一つの隠し扉、ここは直接王のいる最上階と……繋がっている。行こう」
私はそう言い、天井に行くため本棚をはしごがわりに登ろうとした。
が、私が手をかけるよりも先に、言葉が飛んでくる。
「ま、待ってください……! いきなりどうしたんですか⁉︎ 何かサツキ、その……様子がおかしいですよ⁉︎ いきなり言われても、私達には状況が____」
「急がなきゃいけないんだ」
彼女の言葉を遮り、私は自分でも驚くほどに冷徹な声で、そう告げていた。




