第五百四十五話 警戒した場所は
程なくして、薄明かりが頭上に現れる。
抵抗するわけでもない私の体はまるで穏やかな波に攫われているかのようにその光へと向かっていき……。
「どわっ」
また、地面へと投げ出されたのだった。
うう……私以外皆普通に通れているのはなんでなんだ……?
そう思いつつ、痛む額を摩っていると。
「サツキ」
突如、頭上から優しげな幼さの残る声が降り注ぐ。
見上げると、こちらを心配そうに見る顔があった。足をかがめているらしく、恐ろしく顔が近い。
白色の一対の瞳とそれらを飾る長く細い睫毛。純潔という言葉の似合うどこまでも白い肌と優しく揺れる肩にかかるかかからないか程の髪の毛。
輪郭からは光が漏れ出て、あたかも後光のように見える。
「……女神?」
「ふぇ? な、何を寝ぼけたことを……。ともかく、起きてください! 転がっているのはサツキだけなんですから」
この口調、どうやらフレイだったようだ。
白い肌をほんのりと赤く染めつつ、フレイは足を立たせて私との顔の距離を離す。
後光に思えた光は、照明の光だった。
……ということは、ここが内部……。
「……皆、ひとまず周りの状況を把握しよう。図書館を探すのはそのあとだ」
私は寝ぼけていたスイッチを即座に切り替え、再び身体を奮い立たせ、全身に緊張感を与える。
だが、何故だか皆は私と同じような警戒態勢はとらない。……というか、むしろ申し訳なさ半分面白さ半分のような雰囲気が……。
困惑し固まる私に、サラマンダーが話を切り出した。
「……その、サツキ。悪いんだけど、よく、周りを見てごらんなさい」
周り……? そういえば、照明こそ見えたけどもあまり周りを見ていなかったな。
言われるがまま、私はひとまず立ち上がり、前方を見る事にした。
何の気もなく、ふっと見ただけだった。だが、そこにあったのは。
「……なんだ、これ……」
そこには、たくさんの人々が右へ左へとすれ違っていく姿があった。行く先々には様々な施設が垣間見える。それが何かと聞かれるとまだ答え切れるものではなかったが、全体を言うなら大型ショッピングセンターのような、広く、開放感のある雰囲気がある。
……しかし、もっとも重要なのはそこではない。
人々が、それぞれに歩いていた。何かに一直線に向かうというわけではなく、見かけたようにキョロキョロしていたところ何かに目を止め歩き出す者もいれば、特に何も考えずに歩いているような者もいる。
それぞれが、自分の意思で動いていた。
「『ようこそ、統合庁へ。本日はどのような行動を御所望でしょうか』」
気づかぬうちに下から声をかけられ、思わず私は跳ね上がりそうになる。
しかし、落ち着いて下を見ると、そこにあったのは丸っこい見た目をした機械だった。やはり流暢な言葉を話す。
洗脳とか、物騒なものではなさそうなのは確かだ。……でも……。
「ここは一体、なんなんだ……?」




