第五十二話 サラマンダーとウンディーネ
「双……子?」
「そう。あいつとの記憶以外は何も思い出せないけども、私達はいつかの時代、何処かで生きていたのよ」
風景も思い出せないってことなの……?それに双子なら尚更喧嘩をするなんて考えられない。
「いつの時代かも分からないって……名前を辿っていけば少しは分かるんじゃないの?」
私の疑問に、サラマンダーは少し憂いを帯びた声を出す。
「名前は……思い出せないの。覚えているのはウンディーネとの仲と自分自身の姿、それと何処で覚えたか分からない知識だけ。
だから、私達は精霊として与えられた名前を使っているの」
……励ますどころか、むしろ悪い思いをさせてしまったかもしれない。
廊下の薄暗い光が一層暗くなった気がした。
「その……悪いこと聞いちゃったね。
思い出せ無いだけじゃなくて、忘れたってところまで意識するなんて、酷な話だ。
……少ししたら戻ってきてね」
私はそう言い、その場を立ち去ろうと背を向け足に力を入れるが。
「ちょっと待って」
サラマンダーが背後から私を引き止めるように声をあげた。
不意の出来事に、私はその場で勢いよく振り返ってしまいそのまま体のバランスを崩して椅子の上で転んでしまう。
「……話ぐらい聞いて行って頂戴よ。たまには……ね」
私はサラマンダーの言葉に顔を上げ目をパチクリとさせ、若干驚きながらサラマンダーの横にまたちょこんと座る。
「……じゃ、話すわよ。私とウンディーネが双子って言うのは言ったわよね。
それで、私達はいつも喧嘩してたわ。といっても、あの子がちょっかいを出して私がそれ以上に仕返しを拳で返すってのが日常茶飯事だったけどね」
昔からって言うのは本当に昔からだったのか……しかし、双子と言うものは仲がいいものじゃ無いのか?
「双子なのにそんなに仲が悪かったの?そんなに喧嘩するなんて……」
私の疑問に、サラマンダーは絶句するが、その後呆れたようにため息を吐く。
「あのね、何か勘違いしてるみたいだけど、あんたが思うほどいいもんじゃ無いのよ。
お互いがお互いを比較して妬んで……まあ、それでも助け合う時もあったんだけどね」
サラマンダーの言葉はどこか懐かしむような雰囲気があるように感じた。
昔……二人はどこで何をしていたのか。それは『万物理解』でも解明できない。
「あった……?今は違うの?」
「どう見ても違うでしょ。私の方が力が強かった頃はね、多少ウンディーネも尊敬してくれていたものよ。
でも、今はあの子の方が強いのよ。単体じゃ私は力を発揮できない。あんたみたいな持ち主がいないといけない土台なのよ」
だからウンディーネはサラマンダーを見下すような態度を取ることが多いのか……。
強さの立場が入れ替わってどんな風に接すればいいのか分からない、きっとそう思っているのだろう。
「……今回の作戦、サラマンダーはどうする気なの?」
私の問いにサラマンダーは難しげに唸ってまたため息をついた。
「難しいところよね。あの子が素直に私を入れてくれるとは思えないし、私もちょっと自信ないわ……」
確かにウンディーネにお願いしても多分つっぱねられる。
プライドも高そうな所があるし、正攻法では無理そう。
でも、私は考えるのが得意だ。
このスキル達が有れば大抵はできるものさ。
「サラマンダー、ちょっと耳を貸して。……まあ無いんだけど。私達が行ったら……」
「……え?あんた、それかなり運に任せられるわよ……?」
刀身を傾けてサラマンダーは私の口の近くまで近づく。
「大丈夫大丈夫!ちゃんと論理はあるから!」
適当に言っているわけでは無かったが、サラマンダーは少し疑わしそうにしていた。