第五十一話 精霊の正体
「……は?いらない?何いってんの?いざと言う時に私がいなかったら……」
サラマンダーはうろたえながらウンディーネの方を見る。
ウンディーネはそんなサラマンダーの姿を五月蝿そうに見下し。
「二度も言わせないで。私なら敵に出会っても窒息させればどうにでもなるし、どんな部屋にも侵入できる。
炎を出すだけが取り柄のなまくら刀は要らないって言っているのよ」
剣先を指で弾いて突き放すように言う。
その言葉を受けてか、稲妻のように走る刀の刻印を燃えるように光らせるどころか、刀全体を真っ赤に染め上げる。
「なによ……!だったらもう知らないわ!勝手に行ってくたばってなさいよ青色ローション!」
そう言い、彼女はカーテンを通り過ぎドアを切り裂いて医務室を出て行ってしまった。
「あっ……サラマンダー……!」
小さいフレイは飛んで行ったサラマンダーの後ろ姿を追うように手を伸ばすが、自分の足では追いつけないことに気づいたのか悔しそうにしながらその場に座る。
……前に出て行ったフレイがコウキに連れ去られてしまった事があった。
少し心配になっちゃうな……。
『マナにアクセス。サラマンダーの現在地を表示して』
『検索中……検索完了。現在地より北北東10m、高度は同位置です。この城に住む職員の記憶より地図を構成しました。参照として提示します』
その声とともに、頭の中にマップが浮かび上がる。このフロアの地図らしく、現在地の医務室が赤色に変化している。
それと相対するように、青く光るピンのような物が地図の右上にある。
恐らくサラマンダーがいる場所だろう。
まあまあな距離だし、ここはサツキちゃんを出動させるか。うまく動くかも試したいし。
私は自分のもう一つの身体に意識を分け、自分自身の小さな手を握り、大きく見えるあたりを見回す。
自分の顔と目が合い、少し不思議な気分になった。なにせ意識を分けているだけだから両方の視界が映る。
しかしずっと見ているわけにもいかないので、ベッドを飛び降りてサラマンダーのいる場所へ向かうことにした。
この身体は脚力や腕力を普段の『怪力』、『神速』使用時よりもワンランク下の設定にしている。
サイズや見た目は小さく可愛らしいが、ジャンプ力やパンチはシャレにならないレベルなのだ。
だが歩幅はもちろん小さい。だからこの身体での基本的な移動はジャンプになるのだ。
廊下の両壁を往復するように跳びながらサラマンダーのいる場所を探る。
廊下は不思議と暗く、何か異様な雰囲気を感じる。私が壁を蹴る音だけが辺りに響き、ふと前を見ると椅子の上にサラマンダーがいた。
「サラマンダー!大丈夫?さっきウンディーネと結構な言い合いしていたけど」
私がそう聞くと、サラマンダーは少し愛想笑いをして俯く。
「全然大丈夫よ。私もちょっと熱くなっちゃったし……」
サラマンダーは頭が悪そうに見えて案外色々と考えている。
人の性格も見抜けるし、アドリブが足りないが計算能力も十分だ。
でも、それでもウンディーネとはやはりそこまで仲良くなれていない。
それは何故か……?
「……ねえ、サラマンダーってさ、ウンディーネとどうして喧嘩しちゃうの?」
まるで先生のような言葉だが、他意は全く無い。むしろ好奇心的な部分もあるので嫌みというような感じでは無いのだ。
「そう……ね。昔からよく喧嘩していたのよ、私たち。私の方は自分が正しいと思ったことは曲げられなかったし、あの子もそんな私が嫌いだったんだと思うわ」
それを汲み取ってか、サラマンダーも真っ直ぐに話してくれた。
私はそれに少し嬉しさを感じたが、同時にその言葉に奇妙な物を感じた。
「……昔?昔っていうのは一体いつのことなの?あの光の状態では意識がないんだよね……?」
私は眉を寄せてその疑問点をサラマンダーに聞く。サラマンダーはその言葉に一瞬言葉を濁したが、なにかを決心したように話し始める。
「それは……んー……分かったわ。あんたの好きなクイズ形式で教えてあげるわね。
まず、私たち、まあ精霊は最初から知識を持っていたわよね?言語やある程度の常識。
でもそれってどこかおかしくない?初めて意識を持った存在がいきなり喋り出すなんて」
確かに言われてみればどこかおかしい。マナに記憶が多少あるのは分かるけど、それでも偏りが出てしまう。
「じゃあ、つまりどういうこと……?」
「まだ分からない?だったらヒントをもう一つあげるわ。精霊って言うのは身体がマナで作られているの。でも、意識を保つためには体を構成する部品が足りない。だから不足している部分をなにかしらに宿って補う必要があるのよ」
なるほど……。だから刀やスライムと合体する時に見た目が変わるのか……。
光の状態は精神体ではなく肉体。そういうことだ。
「……それで、本題はここから。つまり精霊の精神って別にあるのよ。精神自体はマナで作られず、何処かから持ってくる。肉体から離れた精神を」
私の身体に電流が走るような感覚を覚えるほどの気付きが溢れる。
謎を解明したときのような、あの感覚だ。
「それってつまり……!」
「そう。私達はもともと生物。ウンディーネと私はもともと双子だったのよ」