第五百二十五話 歩兵機械
「はっ⁉︎ え……どういう、こと……」
私は目の前で起きている現実が受け入れられず、困惑のまま硬直してしまう。
何が起きた、何が原因だ、どうすればいい。様々な疑問や不安が頭の中で飛び交う。
『万物理解』のあの異常な返答……もしかして、スキルが使えないのか?
頭の中がぐるぐると渦巻き、ただでさえ暗い風景の上から私の視界が黒く染まって行く。
「サツキ! どうしたんですか⁉︎」
その時、暗闇から聞こえるフレイの声にはっと意識が戻った。
そうだ、私がこんなのでどうする……! とにかく、どうにかしないと。
『万物理解』が使えないからと言って、他のスキルが使えないわけじゃ無いはず……!
そう思い、私は何かヒントがないかと暗闇の中を必死に目を凝らして見つめる。
そして振り返った時、私の目にあるものが映った。
夜空のように煌く、翻る私のローブの裏だった。
「っ! 『無限』……!」
すぐさま私はローブを翻し、一直線上にその中の闇を引き伸ばす。
闇は壁にぶつかり、穴を開けた。そこから降り注ぐ光は、視界確保に十分だった。
改めて周囲を見回す。
口元を押さえてしゃがみ込むフレイ、こちらを発見した様子のイレティナとウンディーネ。何故だか壁に突き刺さっているサラマンダー。
良かった……全員いる。
フレイの方に改めて視線を向けると、彼女の頭上に穴らしきものが見えた。そこから青い気体が霧吹きを撒くように降り注がれている。
『……万物理解、あれは?』
『検索不能』
隔離が解けたから大丈夫かと思ったが、駄目だったか……。
と、その時だった。
「『入国場においての不具合を確認。機械法第九条四項により歩兵機械三名を調査のため派遣します』」
先程の女性の声と同様の声が再び聞こえてくる。
私達は思わず顔を上げて声の出所に目を向けようとまでしてしまった。それもそのはず。今、歩兵機械という名が聞こえてきた。
「サ、サツキ……ほ、歩兵機械って……」
素早く立ってよろけつつ、フレイがこちらへ歩み寄ってきた。その顔は、すっかり青ざめている。
皆も表情を一変させていた。警戒というより、最早恐怖に近い引きつった表情で沈黙する。
警戒要素としては、確かに入れていた。壁であれほどの戦力なのだから、内側はもっと凄まじい戦力なのだろうと。私は、そうなった場合皆を守り切る自信がなかった。
だから、出来るだけそう言った揉め事を起こさないようにしようと決めたのだが……。
「……サツキ? サツキ、どうしたんですか?」
「……」
フレイは物言わず立ち尽くす私に、不安を抱くような声色を見せる。
ウンディーネも、固まる私にどうしたと言わんばかりに不安の色だ。
しかし、私は立ち尽くしていたのではない。
「……『……」
「え? サ、サツキ? 一体何を言って……」
「『スキル増強』、『スキル増強』、『スキル増強』、『スキル増強』……」




