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第五百十九話 射程に限りなし

「……サツキ、もしかして……あれ、らも……」


 途切れ途切れに唇を震わせフレイは遠くを指差す。

 

「ん……。……!」


 数十メートル、また先に、同じ物体が地面にあった。

 同じ大きさ、同じ幅。だが、一つだけ違うのはその数。


 そのまたすぐ先に、また二つ物体が転がっていた。

 二つ、三つ、四つ。まるで打ち捨てられた魚のように、点々と地面に死体がある。


 どれもが遠目から見るだけでも分かるほどに痩せ細り、何百年とたったミイラのように思えた。

 また一人、バタリと倒れる。一瞬私は声を出しかけたが、横で立ち続ける人々は、それに見向きもせず、ただ下を眺め続ける。

 

 表情は先ほどの人達よりももっと重苦しいものだった。目はうつろに、口は閉じる筋力すら最早無いのか半開きになっている。それが、どこまでも続いていた。この人達が倒れるのも、時間の問題だ。


 その光景に、吐き気こそ無かったが私は疑問が湧いていた。


「……なんで、なんでこんなになるまで放って置いたんだ……? 転生者とはいえ機械都市の王、ましてや、評議会の議長がそんな事するはずないのに……」


 わからなかった。苦しむ人々を救う為にこの行列があるというのに、その人々が今まさに死んでいる。

 この行列は、矛盾している。


「皆……私には分からないけど、誰か、分かる人は……」


 苦悩の末に皆の方を向いてそう問いかけたが、唸るばかりで答えられる人はいなかった。

 

「とにかく、行きましょう、サツキ。行けばきっと分かるはずです。もしこんな事になっている理由がくだらなかったら、私達で変えましょう」


 肩にもかからない白髪を弾ませ、フレイは強く頷き私を震わせようとする。

 ……確かに、フレイの言う通りだ。今は私に出来ることをしよう。そして……最後は、ここにいる人達にも、きっと今より良い世界を……。


「うん。皆、行こう。『神速』で先頭まで行って、そこで『幻術』を使って難民のフリをする」


 そう言い、私は遥か先に目を向けた。あの黒い壁へと、辿り着くために。


 だが、足に力をかけるよりも前に私は一度、後ろを振り向いた。

 そこには、私の力で多少気分の良くなった人々がいた。顔色も比較的良く、まだまだ生きる余力を作れていた。


 対して、私の前方はやはり死人のような人々しかいなかった。私がここから離れれば、この人達が助かるかどうかと聞かれれば、その確率は限りなく低いだろう。……でも、ここから先の人たちに『変化』を掛けながら『神速』を使うと言うのは、中々手こずってしまいそうだ……。


「あ、そうだ!」


 唐突な私の声にフレイやイレティナが驚いた表情を見せるが、私はそれどころでは無かった。

 閃いたことを即座に実行するために、『変化』を使う。それも、空気へと。


「空気を……『私』に……」


 その瞬間、手の前方一立方メートルほどに、感覚を感じた。視覚でも触覚でも無かったが、確かに、前方の空気は私となっていたのだ。


 そして『変化』は私が触れた、もしくは近くにいる周辺の物質を任意で別のものにしてくれる。

 つまり、私がもっと先にまで入れば。


「ここから前方まで、全員助けられる……!」


 空気の螺旋が私の目の前に渦巻く。人々の上空を駆け抜けていく螺旋は、全て私だ。凄まじいスピードでわたしの一部となっていく空気。そして、私が人々を覆い尽くした。


「『変化』」


 その一言の後、緑色の光が降り注ぐ。

 痩せこけた頬はみるみる内に健康的な肌となり、うつろな目には光が戻っていく。


 気づいていないのか不思議そうな顔をする者は誰もいなかったが、それでも私は満足だった。

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