第五百一話 意気消沈
さて、始まったはいいものの、まずは何をしようか。ここに残るイツには数百万渡しておいたし、祭祀長にも昨日のうちに話をつけておいた。
「サツキどうしたのよ? 早く『時空転移』使いなさいって」
サラマンダーがひょっこりと姿を私の目下に滑り込ませる。
「え?」
「えじゃないわよ。王のいる所探してそこに移って倒せばいいだけでしょ? あんたが戻ったんだから、評議会の議長でもなんでももう怖いもの無しよ!」
サラマンダーの言葉に、声には出さずともその場の全員が同意を示すように各々笑う。
……素直に喜べないな。頼りにされているのは本当に嬉しい。嬉しいんだけども。
「……無い」
「……無い? ないって、何が?」
キョトンとしてサラマンダーは私に聞いてくる。顔を俯かせ、下に潜り込んでいるサラマンダーにすら目を逸らしつつ、開ける口が重々しい。
「その……反応が」
「へ?」
素っ頓狂な声を出し、サラマンダーは固まる。私素っ頓狂とか言っていい立場じゃないけど。
皆まで言わずとも、イレティナ以外は察しがついたみたいだ。その……唖然とした表情からして。
そう、コウヤの反応はとっくに消えていた。
「……へ⁉︎ は⁉︎ い、いつから⁉︎ いつから気づいたのよサツキ!」
魂が一気に戻ってきたかのように叫び声でサラマンダーが押し迫ってくる。刀身の平たいところが私の頬に押し付けられて、冷や冷やとした鉄の感触とサラマンダーの熱が伝わってきた。
思わず目を逸らしてしまうと、熱に当てられてか私の顔にも汗らしき液体がつうっと一筋落ちていく。
「えと……起きてから、かな」
「起きてからぁ⁉︎」
剣心から震えるサラマンダーの声に思わず飛び跳ねてしまう。
うう……やっぱりもう少し早く起きておけば良かった……これじゃ受験生の受験日前カツ丼と一緒だよ……。
「ご、ごめん……」
サラマンダーからの攻め句が轟々と来るものだと思い、私はその場で身構える。
だが、どうにもいつまで経っても来ない。不思議に思いそっと目を開けてみると。
「うわっ⁉︎」
「……」
サラマンダーが、その場で立ち尽くし、いや浮き尽くしていた。
刀身に刻まれている紋様の赤色は根本にまで下がってしまい、まるで燻っている焚火のようで、いつものメラメラと言った感じでは無かった。
サ、サラマンダーそんなに楽しみにしてたのかな……? 私もかなり困ってるけど、正直そっちの方が心にくるかも……。
……どうすれば……。
「じゃあ行きましょうよ。王城に」
「え?」




