第五百話 冒険の始まり
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私達は大いに宴会を楽しんだ。イレティナがかき集めてきてくれた新鮮な果物に、街の酒屋で一番高い酒。それとヴィリアお手製のサラミは絶品だった。ナッツやら何やらと既におつまみを作るのが得意そうな片鱗は見えていたけど、本当に得意らしい。
宴会には祭祀長やイツも参加してくれていた。
ただひとつ残念だったのはマナティクスがもう消えてしまっていた事だ。ずっと家にいたイツでさえ私が聞くとそう言えばいなくなっていたな、なんて返すのはイツが寝ぼけているのかそれともマナティクスがそうしようとしていたのか……。
ともかく、マナティクスが戻ってくることはなかった。フレイがマナティクスを呼び出した召喚方法を試してみたものの、マナティクスが訪れる気配は欠片も無かった。
残念ではあったけど、まあ美味しいサラミを食べながらフレイの余興を見たので大して気にはならなかった。
そうして、久しぶりに満腹になって迎えた翌日。
「っ、うーん……よく寝た。あれ、今何時?」
「八時を過ぎたところですかね」
昨日の崖とは反対側の丘に立ち、私は全身の筋肉と骨をバキバキ鳴らしながら伸びをする。
ご飯食べてお酒グビグビ飲んで寝るなんていつぶりかな? おかげでこんな時間までぐっすりだ。
「おはよーサツキさん!」
「ん、おはようイレティナ!」
丘から駆け上がってきたイレティナがそのままこちらへと足を早めてやってくる。
「早起きだねぇ。散歩?」
「うん、潮風が気持ち良いんだよ! あ、でも早起きなのはちょっと違うよ。だってサツキさん一番最後、それもすっごく遅いんだもん」
え……八時って遅い方なの……? てっきり皆もついさっき起きたものだと思ってたんだけど……。
「ほんと、遅いわよ。起こすのもかわいそうだからって皆であんたが起きるまで待ってたんだからね? 全員もう六時には起きていたのよ」
「ん、サラマンダーおは……え、六時?」
その声と共に、岩の裏の方からサラマンダーがふよふよと浮きつつ現れた。彼女の横にウンディーネも一緒にいる。
挨拶をしようとした矢先に私の言葉は間の抜けた鸚鵡返しとなっていた。
そんな鸚鵡返しにサラマンダーが呆れる横で、ウンディーネがずずいと前に現れ。
「そうよ。あなたが起きるまで結構暇だったのよ。フレイなんて六時からずっとあそこで立ってあなたが起きるの待っていたのよ?」
「ご……ごめんごめん……ん? あれ、今なんて言った?」
顔を近づけジッと私を見つめるウンディーネに私は後方へと下がりつつたじろぐ。だが、そこで彼女の言っていた言葉に動きを止め。
「フレイずっとそこに立ってたの⁉︎」
道理で丁度いい場所に立っていると思ったら……! 私がここに来て朝日を浴びるってことが予想ついてたのか⁉︎
何も言わずに、フレイはコクリとうなずく。思ったよりも皆に迷惑をかけてしまったようだ……。
「皆ごめん! 皆が起きてるっていうのに私がぐうぐう寝てたなんて……!」
「……ぷっ」
「え?」
何やら吹き出すような声が聞こえ、私は下げていた頭を思わずあげる。
みると、サラマンダーが笑いを抑えていていた。
「ふふ……ごめんねサツキ。本当のことは本当のことだけど、誰も怒ってなんか居ないわ。むしろ、久しぶりに安心しきったサツキが見れて良かったわよ」
……な、なんだ。良かった。新しい旅の始めがこんな怒られて始まるなんて溜まったもんじゃ無い。いやでももう少し早く起きるのは意識したほうがいいかな……?
「ね、これから私達五人で旅するんだよね⁉︎ 五人で!」
「そうですね……。あの時に止まってしまった旅の続きが、やっとできます」
ワクワクした様子を見せるイレティナに、フレイは返事をしつつ微笑みを浮かべていた。
かくして、私達の最後の旅。機械都市への旅路が始まったのだ。




