第四百九十七話 フレイの敵意
私が救われたような気持ちになっていると、驚いた顔をしてイツは私達の顔を見るように前へと乗り出す。
「『死神』……? なあ、それってサツキの事言ってんのか?」
彼の質問に、私は一瞬首を傾げる。
ん……? そりゃそうだけど……ああ、そう言えばイツにはまだ言っていないんだったっけ。
彼の予想は合っていると、ひとまずそれを言おうと口を開きかけた時。
「だったら、何だっていうんですか」
私が彼に向けていた顔の後ろから、私を通り過ぎていくように声が届く。
ほぼ背後からの声の主は、紛れもなくフレイだ。しかし、私に向けていた優しげな声とは打って変わって、冷徹な、さも敵に対して向けるような声色だった。
フレイ、いきなりどうしたんだ……? ……あっ!
顔の角度をフレイよりに少し変え、彼女の方にちらりと視線を向けたところで私は目を見張った。
彼女の肩あたりから僅かにその姿を覗かせる物があった。白く輝き、その先端はあらゆる物を貫いてしまいそうな鋭さ。それだけ見れば正に芸術品に近いが、内側には黙々とした殺意が籠っている。
ほぼフレイの体に隠れているけど……こんな物騒なもの、一眼見れば分かる! これは『神滅槍』……フレイ、いつの間に『機械仕掛けの神』を起動していたんだ……⁉︎
……いや、今はフレイの隠密性よりももっと重要なことがある……。フレイが今、冷徹な声をイツに向けながら、『神滅槍』を懐に忍ばせているって事だ!
フレイ、自分で言っておいてまだ『死神』って言葉に敏感すぎるの解消できていないのか⁉︎
まずい……多分イツには今私の目の前に映っている恐らく一般人なら一刺しで死ぬ槍が見えていない……。
フレイがいつもは思慮深い事は私も分かってるけど、サラマンダーから聞いた評議会でのフレイは、あまりにも恐ろしすぎる……。どうにも想像できなくて誇張しているんだろうと冗談半分で聞き流していた。
でも、今のフレイなら十分想像がつく! 割と躊躇いなくイツを殺せてしまいそうなこの目! 見ているこっちがハラハラしてしまう。フレイにやめるように言って見るか……?
……いや、でも、フレイはまだ刺していないんだよな。それってつまり、イツが何を言いたいのかは聞いておこうとしているんじゃないのか? 多分返答次第で即殺すとか思っているのかもしれないけど。
ひとまず、見守ってみよう。フレイが一ミリでも『神滅槍』を動かそうとしたらその時は私が止めれば良い。まあ、止めるような事にならないのが一番望ましいけど……。
『万物理解、フレイがイツに攻撃態勢とったらすぐ『無限』で槍だけお願い』
『処理中……情報処理が完了しました。『神滅槍』の発動の一コンマ後に『無限』が作動します』
正直、ほぼほぼイツはフレイの逆鱗に触れるだろう。
だって、イツこそこの世界で私の被害をもろに受けている人間だもの。『死神』の事を許せるわけがないに決まっている。
……今夜は、私だけ抜けておこうかな。