第四百九十二話 沈むイツ
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「さて……パーティーとはいっても、何をしたものか……ん?」
皆よりも少し先に家の中へ戻ると、何やら人影が見えた。
祭祀長のいる部屋とは別の、入ってすぐのリビングのような場所。その中心ともいえる場所に、一人たたずんでいる。
「イツ」
「よう。色々あったみたいだな」
感情の動いていない表情で、イツは呟くように私に語りかける。
松明も消え日もほぼ沈み、彼の顔を目視するのは難しくわかるのはそれくらいだ。
イツの言う通り本当に大変な一日だったけど……そういえば半日ぐらいイツを目にしていなかったな。
「イツはどこにいたの?」
「ここの下の方に街があんだろ? 特にする事もなかったし、そこで一日中ブラブラしてたってわけだ」
その割に、イツの表情には疲れが見て取れる。口調も身体の感じも、弾むような雰囲気はなくて重力に引っ張られてしまっているようだ。
「何か、あったの?」
私の心配する問いに、イツは自嘲気味に笑い。
「はは……逆だ。何も無かった。仕事してないと落ち着かねえもんだから何かないかってここのギルドに行ったらよ、そんな暇は無い、だとよ」
ギルド……転生してすぐの頃やっていたアレか。ファンタジーで想像するギルドと一切変わり無かったあの組合。
「暇って……そんな理由で断っちゃっていいの? イツみたいな人に仕事して貰わなきゃあっちだって稼ぎが無くなっちゃうでしょ……?」
そもそもの異世界での普通のギルドというのはともかく、それじゃ仕事として成り立つはずがない。
そこまでしてサボりたいか、と私は思っていたが、イツは私の言葉に僅かに笑う。
「ちげえよ。そんな簡単な話じゃない。もう俺、働けなくなるかもしれないんだよ」
「……え? そう、なの……?」
唐突にそうため息を吐きつつ告げるイツに、私は驚愕とまでは行かずとも少し驚いていた。
イツがクビになったとかそういう話なら別にどうという事はない。イツ自身私が今抱えている財産と同じくらいは持っているはずだし、これからは悠々自適に暮らせばいい。
……だが、それで終わる話とは、とても思えなかった。暗くよく見えなかった表情が、目が暗闇になれ始め少しずつ鮮明になっていく。そこにあったイツの表情は、生気の感じられない半開きの目で床を眺め、会話をしながらも私に向いていない視線は、絶望に近かった。
それだけで分かる。イツの言った通り、単純な話ではない……と。
「イツ、一体何が……?」
「……ギルドの上層部が、まとめて消えたらしい。昨日の夜から今日の朝の間に、大陸全土にいたギルドの管理者、そしてその本部の人間全員がだ。当然、ギルドは運営なんざできっこない。依頼は、本部を通して各地に届けられるからな」
「え……たった一夜で? 幹部全員……蒸発?」
無理がありすぎる、と頭の中で困惑が渦巻いていたが、それと共に私はその理由を考えていた。
一晩で蒸発……国家の殆どが壊滅……もちろんギルドもその影響を受ける……。私のせいでギルドもままならなくなってしまっているのはわかるけど……一夜で、蒸発……?
「……コウヤ?」