第四百九十一話 願い
おずおずと問いかけてくるフレイに、私は少し驚きながら。
「それって、一晩ここにいたいってこと?」
そう問いかけると、フレイは頷く。
「はい。言おうかどうか迷っていたんですけど、ヴィリアとここでお別れというのなら、尚更……」
しっかりと最後の一時を過ごしてからここを離れたい、というわけか……。
二つ返事で簡単に頷ける要望かと聞かれれば、それは難しかった。最後の王を安全に倒すには、今が千載一遇のチャンスだったからだ。
フレイ達が私がいない間に出会ったコウヤという奴。ヴィリアとの闘いで多少時間は消費してしまったが、ここから奴の目的地までの道はその程度の時間で辿り着ける場所ではない。
コウヤの正体自体は不明だが、私の得たマナからの情報では全ての国が破綻しつつある状態だ。前の私だったら、全員倒したと勘違いしてしまう所だが……芦名に教えられた以上、その可能性があり得ない事は十分にわかっている。
一箇所。この大陸の東端に一箇所空洞がある。そこからの情報は『万物理解』から一切伝わってこない。
つまり、マナが無い場所。大陸東端、評議会議長の支配する場所であり、傘下国運営の元首であったはずの国……機械都市だ。
フレイ達には、まだコウヤの国が機械都市であるとは伝えられていない。タイミングの問題もあるが、何よりそんな話をしたく無かった。
機械都市にコウヤがつけば、恐らくとんでもない脅威になってしまう。芦名は私が頑張ればギリギリ倒せるかもしれない、いと言っていたが……裏を返せばそれは同じくらいの確率で全滅、なんてこともありうる。
それはなんとしてでも防ぎたい。頭の理屈の上では、私はもう既に何を言うのかを決めていた。
……だが。
「……サツキ、いいですか?」
沈黙していた私に再び不安げに聞いてくるフレイを、私は視線を下ろして目にした。
そして、ふっと笑い。
「……うん。今日はもう暗い。明日の朝まではここにいよう」
そう、フレイだけで無く皆を見回して告げた。
それと共に、フレイの顔がパアッと明るくなり、声にこそ出していないもののその喜びが空気を通して伝わる。
当然、明日の朝まで過ごしていて本当に間に合うのかは分からない。目覚めたら、もう手遅れになっているかもしれないことも、十分分かっていた。
……でも、それでも作った縁を大切にすることが一番なんだ。私達は命がけの戦いをしに行く。
誰かが死んでもおかしく無い、それを防ぐように努力はもちろんするが、常に約束できるかと言われると、今までの私を見て口をつぐんでしまう。
……だからこそ、大切だ。
「よーし! そうと決まればパーティーだ! 二日続けてだけど、楽しんじゃおう!」
悔いの残らないように、思うがままに生きることが。