第四百八十七話 残念だが
「……は?」
拍子抜けしたようにヴィリアは若干気の抜けた声をあげる。
どう言う意味だとでも聞きたいようだが、言葉の通りだ。私は今ヴィリアを最後の戦いに誘っている。
「君の力は、やっぱり凄まじい。スキルなんかはまだ半分も見せてもらえていないけど……さっきの戦いで、十分強さが分かった。それに、心の剣が違う人の考え方も気になるしね」
ヴィリアは、目を丸くして私を見る。私が彼女を誘う事はかなり予想外だったのだろうか。
私が返答を待ち、数刻沈黙が流れる。その沈黙が心地悪いのか、そわそわとしつつヴィリアは視線を横にずらすなどして答えを遅らせる。
いよいよ日が沈まんとする中、街に続く山道に太陽が差し掛かる。
その橙色の光を横一直線に山肌へと投げかけ、長い影が私の右足から伸びていった。
そんな中、ヴィリアの背後にいたフレイが嬉々とした表情でいつの間にか彼女の横に現れていた。
「サツキ、ヴィリアも一緒に行くんですか⁉︎ ヴィリアが居てくれたらきっと百人力ですよ! 炎も水も出せて、まるでサツキが二人になったみたいに____」
「フレイ」
目を輝かせ私に思い描く事を語るフレイを、ヴィリアは苦々しげな声で止める。
フレイがすぐに言葉を止めぱっと彼女の方を振り向くと、彼女は、下を俯きながらも何かを言わんと歯を食いしばっていた。
「……っ、フレイ、サツキ、それにお前達。すまないが……私は、一緒に行く気はない」
重々しく、絞り出すような口調でヴィリアはそう皆に告げた。
サラマンダーとウンディーネは無表情のまま沈黙を続け、イレティナは少し下を向いて汗を垂らしている。
それは、「えっ」と小さく不意を突かれたように声を上げたフレイを見ての事だった。
「な……なんで、ですか? ……あっ、もしかして一生ここに戻って来れないって思ってるんですか? 大丈夫ですよ、一週間もしないうちにきっと戻って……」
「いや、フレイ、いいんだ。ヴィリア、分かったよ。君はここに残ってくれて大丈夫だ」
私の言葉に、また驚く声が場に漏れる。
だがそれは、今度はフレイだけでなく、ヴィリアもだった。
「い、良いのか……? 断っておいて言うのも憚られるが、お前は私を旅に加えようと今誘ったのでは……」
困惑するヴィリアに、私は優しさを込めて微笑みかける。
「半分はそうかな。でも、もう半分は、改めてヴィリアの想いを知っておきたかったから」
先程祭祀長から聞いた話で、ヴィリアの生い立ちは大体わかった。
でも、その中で一つ気になったけれど分からなかったことがあった。彼女が何故そこまで人を守ろうとするのかと言う事だ。
守ると言っても、彼女は全てを守っているわけではない。守ると言うにも色々ある。家族を守ったり、友達を守ったり、自分を守ったり……。
でも、そんな中で、ヴィリアはこの島を選んだ。そこが解せない。そしてやはり、ヴィリアのさっきの言葉はこの島を守ろうとする物だった。
「……ヴィリア、聞きたいんだ。どうしてこの島を……守りたいの?」