第四百八十五話 背負わなければ
*
祭祀長は、私にあらかたの事を伝え終えた所だった。身体は健康的になったはずだが、その両頬は話しただけでげっそりと痩せこけてしまっている。
「……祭祀長さんが自分のせいだと言っていたのは、そういう訳ですか」
「ええ、そうですじゃ。今のヴィリアを否定する気は毛頭ありませぬが……ただ、時々思うのですじゃ。儂があの時助けていなければ、あの子も普通の生活を遅れていたのではないかと……」
顔を俯かせ、祭祀長は物思いにふける。きっと彼は一人で、十年間以上もの間何度もそう考えてきたのだろう。まさしくそれは後悔の念だ。
だが、同じようなことを考えて居る私だからこそ言える事がある。ずっと引きずり続ける事は、良いことではない。過ぎた事は過ぎた事と、割り切るべきだ。
私は、俯く祭祀長に視線を下ろしつつ。
「……私は、そうだとは思いませんね。ヴィリアは自分のしたい事を見つけられたんです。目標も薄弱で、何をしたいのかも分からない人生よりもずっと良い人生だと思いますよ」
かくいう私はと言うと、目標が無かった時期なんて物心ついた時から一度もない。ただ常に最上の結果を残そうと、元の世界で暮らしていたからだ。
そして転生した後も、目的を言い渡され、それとは別に自分の目標も見つけ、その両方を叶えるために死に物狂いで戦ってきた。正直目的のない人なんて想像もつかない。だけど、目標が無いなんてつまらないと、そう確信している。
しかし、私の気持ちを込めた言葉に、祭祀長は顔色をあまり変えず。
「……儂に、あの子の人生を良い悪いと決める権利などありませぬ。決めるのはあの子ですじゃ。……しかし、それはそれとして、儂は自分のやってしまった事を受け入れ無ければならぬのです」
言葉だけは強い決意のように聞こえたが、彼の声は決してそのような物では無かった。後悔がほとんど、その中に不安が垣間見える。
……私じゃ芦名みたいには上手くいかないか……。気にはなるけど、これ以上私が首を突っ込んでも仕方ない。
「祭祀長さん、お話ししてもらってすみませんでした。ヴィリアが外にいるので、気が向いたらどうぞ」
「ああ、分かりました……」
私が声をかけるも、祭祀長は気をどこかにやってしまったように生返事を返す。そんな彼の姿に後ろ髪を引かれながらも、私は家を後にした。




