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第四百八十四話 変貌の元凶

「……!」


「今一度、お願い致します。私を弟子にしてはいただけませんか」


 ヴィリアの瞳は、疲労のために瞼が落ちかけ虚ろに赤黒く、眼前に立つ儂の顔だけを鏡のように映し出す。

 幼児(おさなご)が特有する輝くような瞳は、彼女から抜け落ちていた。その開いた空洞を埋め尽くすように、彼女の瞳には、何かが入り込んでいた。


 ……最早、この子を子どもとして扱う事はできない。あまりにも早く、急ではあるが、それに違いない。彼女は、精神を成熟させてしまった。何も考えぬ夢だけを見る子どもから、現実を直視し、目の前の事物を粛々と処理する大人へと羽化してしまった。


 目の前の彼女こそが、その事実を肯定する何よりの証拠だった。……だが。


「……ひとつ、聞いてもいいかの」


「なんなりとお聞きください」


 まるで主従であるかのようなヴィリアの返答に、僅かながら困惑しつつ。


「何が、お主をそうさせたのじゃ? そこまで力を手に入れることに何の意義があるのか、儂には分からぬ。じゃが、お主は先程執念で動いた、と言ったの」


「ええ」


「その執念じゃ。お主が言う、心の剣。それがどうして……お主の中に生まれたのじゃ?」


 どこかに発端があると、そう考えて問いた言葉だった。友人二人の喧嘩を止められなかったという結果は、ヴィリアが羽化した引き金に過ぎない。更に奥深い根底。連鎖した物事や経験という、彼女を平凡な娘一人ではなくしてしまった、()


 だが、ヴィリアの放った言葉は、儂の推測とは異なっていた。


「心の剣とは……誰であろうと生まれつき持っているものです。祭祀長様においても例外では無い。私のこの執念という剣心は、きっと常に私と共にあったのでしょう」


 彼女にとっての執念とは、意外にも自分が元より持っているものだった。誰の責任でも、何でもない。その事実が、何故だか儂に胸を撫で下させていた。


 それだけ納得できれば、もうそれ以上は何も求めまい。ヴィリアの欲する時に、儂が教えてやればいい。それだけで十分だ。


 理由もわからないままに、儂はそうと決まればと、それ以上深く考えようなどとは考えなかった。

 だが、それは、自分のことを守るために過ぎない、他者を考えない思考だった。


「しかし……私に心の剣を鍛え上げる意思を与えた、『火』が理由だと言うなら、あるにはあります」


 その瞬間、安堵し切っていた儂の心臓が、ピタリと凍り付いた。鼓動は、早くも無く大きくもない。……だというのに、儂は、息が詰まるような感覚を覚えていた。


「祭祀長様、貴方が私をあの森から助けて下さった時からです。あそこから、私の剣を鍛えるための()()が生まれました」

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