第四百七十六話 短所
彼女の並べ立てる言葉に、私は納得していた。彼女の言う心の剣を、私は握る事を拒絶したからまともに立ち会う事もできなかったのだと、それで説明がつく。
……でも、本当にそれで終わりで良いのか? 戦うと決めた相手は殺すしかないって、そう割り切っておしまいで良いのか? 私は、もっと努力できるんじゃ……。
「あまり深く考えるな。結局のところ、私の言葉ですらこの世の戯言の一つに過ぎん。そんなものに一々気にかけていて、よく生きていけるな」
ヴィリアの声が、また飛んできた。今度はあろうことか自分の意見を否定し出した。
ヴィリアが何を考えているのか、いよいよ分からなくなってきた……というか。
「……気にかけてるって、分かる?」
「一目見ただけで分かるぞ」
「私も分かるわね」
分かっちゃうんだ。しかもサラマンダーまで分かるってなると、もしかしたらフレイ達に気を使わせていたかもしれないな……。
「またその顔に戻ったな」
「えっ⁉︎ あ……! と、とにかく、さっきから言ってることが滅茶苦茶に聞こえるんだけど……! 本当にヴィリア、私の事分かってるの?」
最早少し疑いつつあったが、私は改めてヴィリアに聞き返した。当然といえば当然だが、ヴィリアは心外だとでもいうように眉を潜ませると。
「お前が物事の短所しか見ないから何度も言い換えているんだろう! いいか、今から私が言うことは長所しか無い。裏もない。お前を責めようなんて言葉は一切無い! あるように見えても少し待て! いいか⁉︎」
「う、うん……」
私、いつの間にそんな事を……。芦名にもこの前言われたばっかりなのに……あ。
目線の先では、またヴィリアがこちらを睨んでいた。当然ながら、私の表情を見て。
「えっと……ヴィリアがそんなに私の為に頑張ってくれてて嬉しいよ!」
「そういう事では無いんだが……まあいい」
闘いの最中は一呼吸も乱れなかったというのに、ヴィリアは疲れたように下を向いて大きくため息をついた。申し訳な……あ、いやいや、頑張ってくれている証拠だな……。
「私、フレイ達のところに戻っているわね」
サラマンダーは一言そう告げると、私の返事も待たずにそそくさと飛んでいってしまった。フレイ達との距離はせいぜい二、三十メートル。大した距離では無いけど……それでも私とヴィリアだけと言うには十分な距離だった。
私が沈黙に囚われ若干気まずさを感じる中、ヴィリアは下げていた顔を上げる。
「サツキ」
「はい」
律儀に返事を返してしまうのは緊張している証拠だと思う。身が引き締まっていいと思うけど。
「お前は、数多の国を陥して来た。王が消えた国は混乱を極めどんな事になるか分からない」
「それは、この目で見て来たよ」
「ほう……。だが、それでも私にはお前を許せない理由がある。私のスキルを使い、あのサンフォードを滅亡させた事だ」
試すような目つきで、しかし睨みを聞かせヴィリアはそう告げる。私がどう返すのか、確かめようとしているのだろう。そんなの、一つしかない。それは私の、心からの言葉だ。
「えっそうなの?」
「えっ」