第四百七十五話 抑え込める物
「……」
私は、彼女の言葉に沈黙し、俯いた。頬を撫で付けるように風が過ぎ去り、髪の端が揺れる。
「ヴィリアの、言う通りだよ。私は人を殺すことしかできない……」
半ば自分を嘲笑いながら私はそう地面に吐き捨てる。仲間を守る事は大切だ、どんなことと引き換えにでも、それはやる。……でも、その引き換えは心のどこか……私の心の剣がそう願っているからそうなってしまうんだ。人を殺したいと思っているから、私はいつも、誰でも……。
「いや、そうとは限らん」
風が凪ぐ音の中、そんな言葉が聞こえてきた。誰が言った? 誰がこんな私を庇ってくれるっていうんだ……?
耳に入った言葉にに混乱し、始め私はその言葉が上から聞こえてきていたことに気がつかなかった。
ぶっきらぼうだが、凛とした声。私を見下ろして、ヴィリアがまた語りかけてきていた。
先程まで自分で言っていた言葉を否定する彼女に、改めてまた困惑しながら。
「えっ……⁉︎ だ、だって私は人を殺す剣だって……!」
「それはお前の心の剣の話だ。お前の理性とは違う」
驚きのために若干強い口調になってしまったように感じたが、それすらも容易く捻じ伏せヴィリアは自分の言葉を突き返す。
私はそのせいでますます混乱して沈黙してしまうが、それを見兼ねたのかヴィリアは僅かの間目を閉じた後。
「心の剣とは、心に宿る戦いのあり方だ。戦うときそれが一番の最善手となり最良の力となる。身体が生まれた時から覚えている物のために、何も考え無い一振りはそれになり、経験を積んでいくうちに思考が無意識下でそれになる」
……ああ、なるほど。そう言うことか。
赤子が歩くことと一緒なんだ。身体の方から勝手に覚え、知らない間に意識を向けることもなく歩くようになることと。歩く事をさも当たり前のように考える人間を獣が見たような物……なのだろう。
だが、私はいつそんな事を学習したんだ? 戦うような毎日だったことは確かだったけど、心にそんな荒波を立てることなんて……ん? 待てよ。それが、それこそがなんじゃないか?
心に荒波を立てずに戦う。手慣れたやり方だし、今だって勝つ直前はそうなっている。
「心に変化を見せずに出来ることこそが、私の心の剣……?」
「……分かったようだな。剣を振るうとき殺意を込めるのがお前だ。それはどこまでも速く、鋭く、力強く、そして無心だ」
……やっぱり……。
「だが」
「……え?」
「その力をどう使うかはお前次第だ。理性で押さえ込むことだって出来る。現にお前は、私に剣を振るわなかった……いや、身体から既に戦うことをやめていた、違うか?」
「……たし、かに……」