第四百六十九話 状況把握
皮膚の落ち切った両腕に目を落とすと、赤く輝いている。輪郭は朧げで、時々周りの蒸気と溶け合うような感覚さえある。両腕だけでは無い。全身がそうなっていた。
「サ、サツキ……⁉︎ その身体、どうしちゃったのよ⁉︎」
横にいたサラマンダーが、私の身体に驚愕しながらまじまじと目を向ける。以前一度似たような事はやったけど、正直彼女が驚いても仕方がない。
「炎に近い状態にしたんだ。炎の温度は最低でも千五百度近く、これなら百度程度の蒸気なんて涼しい物でしょ?」
「へーえ……」
サラマンダーは理解したように刀身を頷かせるように曲げるが、やはり私の見た目が気になってしょうがないらしく、言葉の方は何処か投げやりだった。
そんなに気になるかな……? 私としてはかっこいいくらいなんだけども。
「ん……そう言えばサラマンダー、蒸気の中にいても大丈夫なの?」
「あったりまえでしょ。私鋼鉄なのよ? あ、でもあんたにずっと握られてたら流石に柄が燃えちゃうし頭身も溶けかねないから、使うときだけ握りなさいよね」
そう言いながら、サラマンダーは余程柄が燃えるのを気にしているのか、少し私の身体が彼女に触れそうになった瞬間サッと身を避ける。
「……うん、分かった」
「ん? どうかしたの?」
「いや、なんでも無いよ」
口ではそう言いながら、私の心のうちではサラマンダーの放った言葉が引っかかっていた。
使うとき……か。私はヴィリアが目の前に現れたとき、斬ることができるのだろうか。またさっきみたいに、身体が言うことを聞かなくなるんじゃ無いか?
……いや、弱音を吐いてちゃ駄目だ。私には『変化』がある。ヴィリアの腕を切り落としたとしても、きっともうその時点で、決着だ。治せばお互いにノーダメージ、何の問題もない。私は、殺さなければいいんだ。
……よし。そうと決まれば、対策だ。とは言っても、襲ってきた瞬間を逆に襲ってしまえばいいんだけども。……にしても。
「サラマンダー、この蒸気全然晴れないね?」
「言われてみれば……そうね。これだけずっとあるってなると相当広がってるでしょうし……ウンディーネと皆大丈夫かしら?」
サラマンダーは心配げに蒸気の外へと見えないにもかかわらず視線を移す。
恐らく、斬り込まれた時に刀に宿っていた炎と水が原因なのだろう。アレがお互いに触れ合って、ずっと無尽蔵に蒸気を生み出し続けている。現代に有ったら産業革命と永久機関が同時に来ちゃうな、ははは。
いや馬鹿な事を言っている場合じゃない。熱は克服できたから良いものの、気になるのは三つ目に宿っていた、風だ。警戒をしないといけないな……。
「ここにずっと居ても進展も無さそうだし……。『万物理解』でヴィリアの位置を調べてみるか」
そう呟き、『万物理解』に話しかけようとしたその時。
『万物理解、ヴィリアの現在位置を____』
『警告、左手、東方向から多大なエネルギーを確認しました。零点一秒以内に直撃します』
「え____」
その瞬間、暴風が吹き荒れた。