第四百六十五話 少し前
_____時は、少し前に遡る。
ヴィリアの申し入れを了承し、サラマンダー、もとい皆に事情を説明しに行った時のこと。
「闘い……⁉︎ サ、サツキ、ヴィリアが、そう言ったんですか⁉︎」
私が戦うことになったと伝えると、フレイは驚きを隠せずに唖然として私に再度聞き返す。フレイの心情を思うと気が引けたが、私は再度頷いた。
私とヴィリアの話し合いはフレイが私達の仲を取り持つためにしてくれた事だ。フレイからすれば話し合いに行った私達が出るなりすぐ闘うと言い出しているような物。もちろん困惑するに決まっている。
折角の場を結局台無しにしてしまった私に、フレイが怒るのは当然の行動だった。
だが、次に見た時のフレイは、肩を落とし地面へと俯いていたのだ。
「え、フレイ……」
「私……やっぱり、出しゃばりすぎたのかもしれません。二人ともそれぞれ譲れないものがあるはずなのに、仲良くして欲しいって理由だけでヴィリアに無理矢理お願いして、挙げ句の果てにはサツキにまで迷惑を……」
何故受け入れた、とかもっとやり方があったんじゃないか、なんて言われると覚悟していたのに、意外にもフレイは心底落ち込んでいた。……いや、改めて考えてみれば意外でもなんでもない。私のこともヴィリアのことも大事に思ってくれているフレイが、二人が戦うと聞いて落ち込むのは当然のことだ。
しかし、それが分かったところで私は彼女に何も言えなかった。だが、その時。
「フレイ。気にしなくて良いのよ、そういうの」
あっけらかんとした口調で彼女の眼前に飛び込んでくる刀が一つ。サラマンダーだった。
その言葉と雰囲気に、フレイも不思議に思うように僅かに視線をこちらに向けた。
「その、何故、気にしなくて良いのですか……? 私のせいで、喧嘩するはずがなかった二人が争いを……」
「争いなんかじゃないはずよ。もしお互いに本気で殺し合うっていうんなら、サツキはもっと違う顔をしているはずだもの」
「……言われてみれば……」
顔を完全に上げ、フレイは私の顔をまじまじと見ながら納得するように何度も頷く。そんなに変わっているのか、とも聞きたいものだが、これは絶好のチャンスだ。逃すわけにはいかない。
「うん、ヴィリアに言われたんだ。闘ってみて分かるものもある……って。だから、私たちは別に殺し合うわけじゃないんだよ」
穏やかに、荒ぶっているであろうフレイの心を宥めることを意識してそう語りかけた。
すると、フレイは目を見開いたままその場にへたり込んでしまった。
「え……フレイ⁉︎ だ、大丈夫⁉︎」
「いえ……その、安心してしまって。とにかく、良かったです。誰も死なないならそれで良いんです……」
心底安心してしまったのか、フレイはほぼため息のような声で顔を目の前の草へと向けていた。
その瞬間、サラマンダーが間髪入れず私の前へと飛び出してくる。
「ん、サラマンダー」
「元々私に用があったんでしょ? 任せときなさい! ヴィリアの剣に負けないことは証明済よ!」
どんと胸を張るように、サラマンダーは得意げに刀身を逸らす。
その意気込みに私も安心して、彼女を掴んだ。
「頼んだよ、サラマンダー!」
そう言い、皆の所を後にヴィリアへと向かおうとしたそのとき。
「あ、サツキ。一つ伝えたいことが____」