第四百六十四話 公平
しまった……! 遅れ____
「えっ」
体制を整えようとすぐさまサラマンダーを握りしめヴィリアのいる方向へと視線を戻したその時、私の眼前に銀色が迫っていた。
「ッ……⁉︎」
超高速で動くその正体を判別もつかぬまま、咄嗟にサラマンダーで迎え撃つ。
キン、と澄んだ金属音が響いたかと思った次の瞬間、私は迫っていた銀色の正体が刀であると理解した。
そして当然、その刀を握るヴィリアが……。
「……」
「このっ、膂力は……!」
真顔でこちらを見据えるヴィリアは、更に力を強めていき抵抗する私とサラマンダーを押し込んでいく。
こっちだってそれなりに抵抗しているっていうのに、まるで抑えられていない……⁉︎ 『怪力』を併用しても、全然止まらない……!
なんてパワーだ……! いや、それだけじゃない。さっきからヴィリアの気迫が、どんどん増して行っている。
私を押し込むヴィリアの瞳は、真っ直ぐと輝いていた。それに反するかのように獰猛に押し寄せる力に、その、純粋さが加わっていたのだ。
これは……闘気だ。ヴィリアが先程見せた片鱗に違いは無いが、あまりにも、巨大すぎる。
私の生死等最早二の次。彼女は今フルパワーを発揮しているんだ。
「ッ……『神速』!」
彼女のパワーに圧され、抵抗も限界に近づいてきたところで私はその場から姿を消した。
しかしその瞬間、ヴィリアは後ろをすぐさま振り向く。それと同時に剣を振るったが、そこに私はいなかった。
「……貴様」
『神速』を使い、私は彼女との距離を置いたのだ。私の姿を十メートルほど先に見やり、ヴィリアが眉を潜める。
「さっきのスタート開始の時の構え、あれって音を聞いてたんだよね? 確かにあの姿勢からならすぐに私の前に踏み出せば一瞬で首を切り倒せる」
「貴様」
「……本当に、死ぬとこ____」
「貴様!」
ヴィリアの叫び声に、空気がビリビリと伝わってくる。思わず私は驚き口をつぐんでしまう。彼女の闘気は僅かではあるが収まり、代わりに険しい表情が現れていた。
「私を愚弄する気か……? 何故、背後に回らなかった。あのスピードなら通り様に私を殺すことだってできたはずだ。何故、本気を出さなかった」
厳しく私を睨みつけ、ヴィリアは問いただす。……確かに、あそこまで闘いを重要視していたヴィリアの事だ。そう怒るのも当然のことだ。
……だが、私にとってあの瞬間は闘いというよりも、死ぬ間際のようであった。手合わせとは到底思えない殺気。
「……スキルは、闘いに使うつもりは無いよ。だって……ズルイから」
その瞬間だった。僅かな沈黙の後、私が目にしたのは……。
凍りついた、世界だった。
「っ……⁉︎」
しかし、瞬きすると一瞬にして風景は元に戻る。……今のは……。
一瞬困惑するが、私はすぐにハッとして彼女を見た。刀を顔の横に構えている。その表情は、凍りつくような闘気であった。
「……分かった。だったら、公平に行こうじゃ無いか……」