第四百六十三話 闘志
そう問いかけるヴィリアの目は、私をジッと見据えていた。だが、注ぐ視線は私への警戒からではない。私に向けた期待だ。彼女の誘いに私が乗ることを期待している。それはまだ私との距離感を掴めていない彼女の、精一杯のアプローチのようであった。
僅かな沈黙の間。その一瞬の間に焦りからかヴィリアが若干口を一文字に結び始めた。私が拒否するのではないかと、頭の中によぎったのかもしれない。
だが、当然、私の答えは決まっている。そこまで思ってもらえるなんて……私からすれば、ありがたい話だ。
「分かった」
私の一言、そのたった一言を待ち望んでいたようにヴィリアはゆっくりとその目を見開かせる。これは、戦いへの了承だ。今から私たちは剣を交えると、そう相手に宣告しているような物。
……だが、心のうちには一点の曇りもなかった。
「ヴィリア。その申し入れ、受け入れたよ。剣の腕はまだまだだけど……全力でかからせてもらう」
その瞬間、私たちを包み込んでいた空気が一瞬にしてその姿を変えた。重苦しく、私を押しつぶすような闇は、その闇一つ一つが極限まで砥がれた闘志へと変貌する。
闘志の主は私ではない、ヴィリアだ。空気を一瞬で変えてしまうほどの激しい闘いへの意志、それを私が肌で感じとるようになったのは、ヴィリアが今まさに私へとその激しい闘志を向けているからだろう。
殺意とはまた違う、闘いそのものへの憧れと興味。目の前の相手の力量を図ろうとする目。それは幼児の好奇心と似た感情に見えたが……違うところがあるとすれば、今、私が気圧されていることだろう。
ヴィリアは爛々と目を輝かせ、その口元には笑みすら浮かべていた。彼女の横顔を照らす最後の一本の松明に手を伸ばしたかと思うと、彼女は。
「……フン、望む所だ!」
手に数多の炎と水を宿し、松明の火を握りつぶした____
_____海風が、森の奥から駆け抜け髪をなびかせる。私の黒髪が一瞬視界を覆い、風が止みまた景色が戻ってくると、目の前には私を一直線に見つめる、一人の赤髪の女性がいた。
彼女もまた後ろでまとめた髪を風に吹かれ、髪と髪の間間から日の光を見せる。
森に囲まれた円状の場。さながら闘技場のような草原を一面に覆うように日光が降り注ぐ。
「……あの鳥が飛び立った時を開始の合図としよう。構わないか?」
「うん、それにしよう」
一際背の高い一本の木。遠くにあったが私もヴィリアも見ることに問題は無かった。手元にあるサラマンダーを握りしめ、いつでも抜刀できるように構える。
だが私が構える中、ヴィリアは身動き一つとらず、目を瞑っていた。まるで眠っているかのように動かず、そこには感じ取り切れない何かがあった。
何だ……? あの構え……いや、まず構えなのか……?
疑念を抱き、サラマンダーを握る手を一瞬緩めてしまった、その時。
空気が叩きつけられるような音。目を向けると木の上には、鳥はいなかった。