第四百五十九話 流派
私の言葉に、ヴィリアは目をパチクリと瞬きさせる。どこで習った剣技か、なんて普通最初にする質問ではないだろう。それでも私が返答を待っていると、彼女は我に帰ったようにあらぬ方向へと行っていた視線を私へと戻す。
「あ、ああ……すまない。流派を聞きたい、と言うことか?」
改めて問い直すヴィリアに、私もまた同じように頷き返す。
流派というのは、例えるなら車の運転教習所と言ったところだ。しかし、教習所ごとに教え方が違うところが少し異なる部分だろうか。現代で聞くものなら宮本武蔵の二天一流だとか、そう言った物が有名だ。
しかし、そんな流派という言葉がこの世界でも使われている。という事は道場なんかもある訳で、ヴィリアの剣筋も誰かから習ったものという事だ。正直、流れで質問してしまったが彼女の剣捌きの由来はきになる。
フレイから少し聞いただけの話だが、スキルを織り混ぜて振るう彼女の一太刀は地すら裂けてしまいそうな物だったらしい。私とサラマンダーでもそこまで出来るかと言われると、少し怪しい。何しろサラマンダーを振るう時はその炎が主要で、私の『神速』と『怪力』を重ね掛けしてできる事と言えば敵十人なぎ倒し……。とは言っても生身の人間としてだ。
だというのに地を割る彼女の一振りとは……一体どれほどの力が込められているのか、どうやってそんな力を繰り出しているのか。
そう考えているうちに、十数秒は経っていたかもしれない。私の意識がヴィリアの方へと戻った丁度その時、彼女が口を開く。
「実はな、我流……なんだ」
「我……流?」
意外にも意外なその言葉に、私は思わずそのまま言葉を返してしまう。だがそれに不機嫌さを覚えるでもなく、ヴィリアは用意していたように語り始めた。
「十七歳まで、ここで誰に話すこともなく剣の腕を磨いていた。と言っても、私にとっての剣は勝負のための物ではなくてな、皆を守るための方法に過ぎなかった。故にここで培われた物は、どんな手を使ってでも相手を戦闘不能にする剣。殺す事は二の次で、私が死なない事はその更に下……と言う物だ」
皆を守る為の剣……か。私とは、大分勝手が違う。皆を守るために相手を殺す。私がサラマンダーを使って人を救った事が、一度でもあっただろうか。
「お前は?」
「……え?」
一人思い耽っていた時、不意に前方から声が飛んできた。当然ヴィリアなのだが、私には彼女の言っている事がわからない。
「お前はって、どう言う事?」
「お前の剣技……流派は、どこのものだ?」