第四百五十八話 手作りの
私は最早口に食べ物を放り込むだけのロボットとなっていた。味など感じる暇もなく、手当たり次第に食べ物をとってはまた咀嚼する。だが、アーモンドのような見た目のナッツを口に放り込んだ、その時だった。
「……温かい……」
味は感じられずとも、私は熱だけは感じ取ることができた。ほんのりとではあったが、口の中で確かな熱が広がっていく。市販の物を買って適当に盛り付けただけでは、無論冷めているはずだ。と、言うことは。
「これ……手作りなの?」
「ん? あ、ああ。食べ物だけは自分で取ったものを食べると決めていてな」
なんと言う訳でもなく、軽い口ぶりでヴィリアは私に返答する。その言葉を聞き、私はそこで初めて盛り付けられた皿をまじまじと見た。
ナッツは、基本腐らない。水分が非常に少ないことが主要な理由だが、これはドライフルーツの保存期間が長かったり、鰹節が腐りづらい事と同じ原理だ。しかし、それでも有機物なので湿気る。特に海に近いこのような場所ではカビが生える可能性だってある。
更に言うと、腐りはしないが時間が経つと酸化する。酸化してしまうと油分が生じ……簡単に言えば味が悪くなる。
だが、このナッツはどちらの要素もない。カリッとした食感で香ばしく、後味もフルーツの様な余韻さえある。つまりは、新鮮で、しっかりとローストされたナッツという訳だ。
私に義理で出す程度ならそこらへんに置いてある物を適当に見繕って皿に乗せれば良い。だというのに、この皿の上の果物やナッツは……全てが全て、新鮮だ。切られたサクレイは全てに爪楊枝が刺さっていてどれをとっても食べられる。ナッツもカシューナッツのようなもの、アーモンドのようなもの、クルミのようなもの……と、区切られて、その上でどっさりと盛られてある。
それに、ナッツが温かかったということは、出来立て……ということだろう。つまりはいつもは常備していない物な訳で、私と話すためにヴィリアが作ったということ。
……。
「おいしいね、これ」
「そ、そうか? 軽いものしか出せなかったが、口にあったのなら良かった」
たった一言言っただけで、ヴィリアは反応良く返事を返す。顔が笑顔になっていたという訳ではないが、雰囲気がなんと言うか、柔らかくなった。それにつられて、私の強張った全身も少々気が抜けていく。
そうだ、私はヴィリアと話にきたんじゃないか。彼女がここまで用意してくれていると言うのに、私は何をやっているんだ。
「ねえ、ヴィリア」
「ん……なんだ?」
「ヴィリアの剣技って、どこで習ったものなの?」