第四百五十七話 テンパる
「……私達は、近くで待っていますね」
「ああ、ありがとう……」
フレイに声をかけられ振り向きざまに言葉を返すも、不思議と緊張してしまい不自然な言葉遣いになってしまう。内心フレイ達にもついてきてもらいたいところだったが、それは望めなさそうだ。
遅れて行ってはいけないと思い、後ろ髪を引かれながらも私はフレイ達を背にヴィリアの後ろを歩いて行った____
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「ここに座ってくれ」
指される先には小さな石机に手を置けるような位置に、木製の簡素な椅子があった。喫茶店の端にでもありそうな木だけの背もたれ椅子で、表面はしっかりと磨かれ、塗装らしいツヤも松明の明かりに照らされて見える。
「これは自作の?」
「いや、街で買った物だ。働いていると言う訳では無いが、たまに謝礼金を貰うのでな」
「へぇ……」
ヴィリアは喋りながら私の椅子の反対方向にある同じ物へと座る。それにつられて私も背もたれに手をかけて腰掛けた。柔らかいと言う訳では無いが、だからといって特に気に障る程でもない硬さ。久しぶりに椅子という物に座り不思議な気分だが、ずっと一点を見ているわけにもいかず私はあちこちを見渡していた。
「……その、大丈夫か?」
「えっ⁉︎ う、うん! 大丈夫ですはい! えっと……あ、あはは……」
焦って下手な返事をしてしまいそんな自分に焦ってしまう。そんな中背もたれにももたれかかっていなかったことに気づき、笑いながら背中をのけぞらせると、肩だけが板にもたれかかることとなった。
「……」
「……」
なんとも言えない、気まずい沈黙が流れる。ヴィリアは空気に圧されると言うことはなさそうではあった。しかし、焦りに焦って奇行を繰り返す私を見て若干伝染しているのか、口を閉ざしジッとこちらを見る。
警戒心は無かったが、こちらの出方を伺っているのは確かだ。そして伺われている当の私はと言うと……固まって、何も話せなくなっていた。先ほど交わした他愛のない会話術はどこへ行ったのか、焦りが焦りを呼び最早私は石像同然だ。
「その……食べるか?」
恐る恐る差し出された皿は、先ほどからこの机に載っていた物だ。煎り豆やフルーツが綺麗に盛り付けられ、手でとっても汚れないような物になっている。
私は何も言わぬままそれの一つを『神速』でも使っているかの如く手に取り、見る暇もなく口に突っ込み、何度も咀嚼して飲み込んだ。とは言っても味も食感も頭に入ってこない。茶道だったら零点物だ。
「……どうだ?」
「…………ぃです」
「ん……? そ、そうか……」
美味しいです、と言うつもりがあまりにも小声でヴィリアは困惑しながら言葉を返す。彼女が話す間にも私はどんどんと口に食べ物を放り込み、ずっと咀嚼し続けていた。そうしていないと窒息してしまいそうだったからだ。しかし、それでも場の空気が変わることはなかった。
……気まずい。