第四百五十五話 目にした物は
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芦名を葬った後、私達は道を歩いていた。道、といってもその下は草原で、歩けばふくらはぎを雑草が撫で付ける。私達は、山をまた登っていた。王を倒しにいく前に……ヴィリア達に挨拶をして行かなければならない。
潮風はここまでは吹かず、森の手が伸びていない道であるために日光がジリジリと私の黒髪を焼く。だが、そんな私の後ろを追いて行く皆の姿はイレティナを除いて私よりもその表情は暗く、ただ前を見て歩くのみであった。
たまに振り返ると、イレティナだけがこちらの視線に気づいて柔らかく微笑む。だが微笑みは長くは続かず、恐らく私と目があっていない時の表情、瞳を真っ直ぐと向ける口元をひき結んだ表情。そこに私は硬い決意を感じた。
とてもじゃ無いが、今の私だってあの様な顔はできない。いつもは朗らかで一番陽気なイレティナが、一体何故あそこまで未来を見つめた目が出来るのか分からない。だが……私達とは決定的に何かが違うと言うことだけは分かる。
出会ってまだ一日と経っていないが彼女は、決して強く陽気である、と言うだけでは無い様だ。
そう考えていた、その時だった。
「ん、ここは……」
唐突に、目の前の風景がガラリと変わる。両端に森の切れ目が見えていたところが一気に開け、円状に広がる光景となっていた。そして、その中心には先程までいた岩の家。
「……着いた、か」
やっと目的地に着いたと、短い距離ながら私は安堵の声を漏らす。
さて……まずは誰でもいいから、人を探さないと……。
「サツキ、その……」
「え? ああ、ヴィリア!」
フレイに恐る恐る声をかけられ振り返ると、私達が並んで歩いていた道にヴィリアが立っていた。まずは一人目。すぐに発たなきゃいけないことを伝えられる。
「ヴィリア、私た……ち……」
言葉を並べようとしていた私の口は、エンジンが止められた様に徐々にその語気を失って行った。遂には沈黙し、息を呑む暇もなくヴィリアの顔をジッと見る。
「おい……お前。なんだ、さっきのあの抉り取られたような地形は? ……何故、アシナがいない」
ヴィリアの表情は、笑うでもなく、怒るでもなく、冷徹な無表情だった。だが、その質は芦名とは似て異なっている。表情で蓋をしているだけで、その心には確かに何かが渦巻いている。だがしかし、私が読み取れたのは、警戒心のみだった。
彼女は荒い息遣いで問うが、一度深く呼吸をしたかと思うと、途端に静かな均整の取れた呼吸へと変貌する。こちらを見据えながら、ゆっくりとその長身の刀を抜いた。
「一体何があった。返答次第では……分かってるな? 『死神』」