第四百五十四話 ヴィリアの苦悩
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「……遅い」
フレイに頼まれ、あの『死神』……いや、サツキと話をする事になった。初めこそ私の『七聖霊』を破壊のために使った相手と会話をするなど御免だと言ったが、フレイのあの目を見て……一度だけなら、と言ってしまった。
自分でもどうした物かと悩んでしまっている。散々憎んできた相手に会話をすれば良いのかと、頭の中で私らしくもなく試行錯誤を繰り返してしまったのだ。
……だというのに。
「……っ、あああああああっ! 遅い、遅いぞ『死神』ィっ! 私が悶々としていると言うのに、一体どこで油を売っていると言うのだあああ!」
思わず口からついて出た叫びが岩壁に反響する。だがそれどころではない。フレイが出かけて行って三十分。火も炊き終わり、話すのに軽い物でも作ってやろうかと皿にまで盛り付けてやったと言うのに、未だアイツは来ない。
フレイが何かトラブルがあって伝えられていないのか? いや、だったら一度帰ってきて伝えるのが普通だろう。今、私はサツキが悪いやつではないのではないかと思っているのだ。だから二人で話せるようにとこのような机まで用意してやったと言うのに……これではまるで私が阿呆の様では無いか……!
その時、不意に右腕に貫く様な痛みが走った。痛みはさほどでは無いが、衝撃の強い痛みが。
「ッ……、ちっ、まだ響くか……」
評議会の一件以来、皮膚の裂傷は治りつつあるがまだ右腕部の骨折が癒えてくれない。と言っても昨日のことだが。時たま響く程度で、痛みも収まり調理程度ならできるが……それでも剣を振るうにはまだ時間がかかるだろう。
この傷だって、フレイのためと間接的にではあるがアイツを助けようとして負った傷なのだ。だというのに当の本人はけろりとして傷一つなく過ごしている。
羨ましい……と言うよりかは不条理感さえある。そこもアイツに苛立ちを覚える理由だ。私の方が遥かに鍛錬を積んできたと言うのに、強さにおいては勝てる気がしない。それどころか、アイツが『七聖霊』の正体を知ってしまったら、私よりも使いこなしてしまうかと思うと……。
「……ふ、はは……」
自分の考えていた言葉に、思わず嘲笑をしてしまう。こう言うのを嫉妬と言うのだろう。治療を受けなかったのも、本当にアイツに対する怒りのためだけだったのか……。こんな感情は、初めてだ。
「……少し、外の空気を吸うか……」