第四十三話 ミヤビ
私は……表面が変わっただけだったのか……?
記憶と思考がぐちゃぐちゃに混ざって行く。正常な考えはドロドロに溶け、私の心は……
「……サツキ?ちょっと?」
「えっ!?あ、うん。なに?」
すんでのところで現実に戻って来た。
「……足止まっているわよ。あんた弱点少ないクセしていざ当たると弱いのね」
私はサラマンダーに言われ、初めて自分が頭を抱えて荒野にうずくまっていることに気づいた。
荒野の乾いた風を受け、私はまた走り出す。
数分たった後、次第に草原が増え、地平線の先にメルヘリックの城が見えて来た。
エブルビュートやフェアラウスと比べてどこか経済面で弱い雰囲気も感じるが……。
城下町を飛び越えて行けばすぐ城に入れるか?
そんなことを考え、私は足にさらに力を入れジャンプの準備をする。
そして飛び上がろうとしたその瞬間、唐突に目の前に壁が現れ、私は全身を思いっきりぶつけてしまう。
「あでっ!な、なんだ……?」
幸い激しいダメージにはならなかったが、鼻が少しヒリヒリする。
周りを見ると白いレンガの壁に黒の下地と赤色のダイヤ模様が施されたレースのカーテンや壁掛けが見える。
洋風の印象を感じ、上にはシャンデリア……ここは部屋なのか?
「くふふ……よもや妾の城に来るとはな……歓迎するぞ?サツキ」
唐突に背後から声が耳に入り私はサラマンダーを抜いて後ろへ振り返る。
そこには玉座にちょこんと座っている女の子がいた。
玉座は彼女の身体よりも大きく半分飲み込まれているようにも感じる。
初対面だったらいたずら好きの女の子、考えられてその程度だ。
だが、その服装はゴスロリ、長い髪を二つに結びリボンを飾るように至る所につけている。
「ミヤビか……!ということは今のワープは……!」
私は平野に居たはずが唐突にレンガの部屋に移動していたことに合点が言った。そう、何故ならば。
「くふふふ、その通り。妾のスキル、『時空転移』じゃよ」
ミヤビは妖しく笑みを浮かべこちらを見据える。
どうやらこの世界からの物でも転移出来るようだ……。少し見誤っていたかもしれない。
「随分とカラロッタを可愛がってくれたようじゃの?いずれお礼参りにはいくつもりじゃったが……
手間が省けたわい」
そう言うとミヤビは玉座に沈んでいた手を出す。手にはピストルが握られ、銃弾が私の方に向かって来た。
「っ……!この程度!」
私はサラマンダーで向かい来る銃弾を弾く、一発、二発、三発と弾丸は勢いを失っていった。
それに驚くわけでもなく、ミヤビはもう片方の手に魔法陣を展開していた。
魔法陣からはくすんだ黒色の細長い形状の銃、ゲームで見たことは有ったが実物は初めてだった。
「アサルトライフル……!?」
「どれ、そのなまくらがどれ程耐えられるか見せてもらおうかの」
ミヤビはまた笑みを浮かべ、その銃を構える。
「くっ……サラマンダー!」
「任せておきなさい!あんな鉄の塊屁でも無いわ!」
心配になり大丈夫か訊こうとしたが、サラマンダーは無駄口を叩くなとでも言うように私の問いが終わる前に返した。
激しい銃声が鳴り響きいくつもの数えきれない弾が私を貫こうとする。
サラマンダーは刀身を赤く輝かせ、防御に徹した。
刀と銃弾がぶつかり合い、鍛治のような音が鳴る。
すんでのところで当たりそうになった銃弾は私の『変化』で液状化して耐えた。
何百という弾を凌いだ後、銃声は鳴ることをやめ部屋には火薬の匂いと火花が散った後の熱気、そして私とミヤビが対峙する静けさが残っていた。
「これも耐えたか……くふふ……まさか近代兵器まで及ばんとはなぁ」
「当たり前さ。私は二つスキルを使っていた。一個、それもこの世界のごく平凡なスキルだったら勝てていたかもね」
私は返答を返すが、ミヤビはそこで黙ったまま俯いていた。
さっきまで笑っていたのにいきなりだな……?
「……で?なんでここに私を連れて来たのさ。銃で逃げ場を無くすため?だったら浅はかな考えだったね」
私は肩をすくめミヤビへ皮肉気味に返す。
後は回収するだけか……?
「……ふ……くふ……」
すると、ミヤビからほぼ聞き取れないような声がして来た。
……なにを言っているんだ……?
「くふ、くふふふふ、くふふふふふひひひ!」
ミヤビは俯いていた顔を上げる。その顔は口角が異常に上がり目からは正常な物が感じられなかった。
「まさか。……くふふ、ここに連れて来たのは妾に有利な状態にするためじゃよ……。
部屋というのは狭い物での、床にいられなくなると逃げ場が無くなるんじゃよ」
ミヤビがそれを言うと同時に床がいきなり赤く光る。
光はゆっくりと流れ私の靴は異常な温度に達していた。
「これは……!サラマンダー、上にいて!」
私はそれが何なのかを察して、サラマンダーを天井に投げ突き刺す。
間髪入れず自分の服と自分自身をそれに『変化』させて中に潜った。
赤く高温度な流動体。ここまでヒントが出れば分かってしまう物、マグマだ。
ミヤビはどこかからマグマをここに転移させ私達を焼き殺そうとした……。
幸い『変化』で同じマグマになれば怪我を負うことはない。
ノーダメージだ。
「くふふ……やはりそう来たか。じゃがこれでは攻撃に転ずることは難しそうじゃの?
こんな時、仲間のエルフが居ればいいのにのぉ?」
私、もといマグマを見下すようにミヤビは嘲り笑う。
エルフ?エルフってフレイのことか?
「その口ぶりどう言うことだ?フレイに何かしたのか?」
私が問いただすと、ミヤビはまた愉快そうに笑い下衆染みた表情を見せる。
「何かも蟹かも……妾があのエルフを唆したんじゃよ」
……何?