第四百三十九話 リミット
「……お前らが俺の予想通りに動かされていたのは確かだ」
私も沈黙し動けない中、芦名が自ら声を発した。
それに対してサラマンダーは更に声色を低い物にし。
「やっぱり……そうなのよね。私達があんな風に動けたのも結局お膳立てがされていただけ____」
「だがな、お前らの意思まで俺が操っていたとでも思ったか?」
「……え?」
不意打ちを食らったように拍子抜けして声を漏らすサラマンダーに、芦名は更に言葉を続ける。
「お前らがサツキを助けに行くかどうかはお前らの自由意志だったんだ。俺は、手頃なヤツを見つけて、お前らに手配しただけで、それ以降はなんもやっちゃいない。お前らが一生島に居続ける可能性だってあったんだ。……それでも、俺はお前らが来ると確信していた」
真剣な眼差しで芦名は皆のそれぞれの瞳を見る。
皆、その瞳からは先ほどまであった負の感情の色は薄れつつあった。私も、皆の目を横から身でそう確信していたが、フレイは一筋、汗を垂らしていた。
それを疑問に思う最中。
「……それは……どうして、ですか……?」
フレイが、芦名に疑問を呈した。
その目には、不安や恐怖は感じず、ただ……興味が奥に輝いていた。
「簡単な話だ……。俺は、サツキと、お前らが出会った時からずっと見ていた。だから分かった。チャンスさえ有れば、お前らは絶対にサツキを助けに来るってな」
「つまり……私達を……信頼していた……?」
驚きつつ質問を更に重ねるフレイに、芦名は少し言いづらそうに口の中で言葉を曇らせる。
「……これはお前らが自分で決めた事だ。いいか、自分に自信を持て。お前らが劣等感を抱く必要なんて無い。俺がしたのはお膳立てだけ……だ……。ぐ、ッ……ゲホッ、ガフッ!」
「あ、アシナ⁉︎」
フレイ達に言葉を告げる最中、芦名は苦しげな表情をしたかと思うと、うずくまり咳き込み出す。
呆然と立っていたフレイだったが、すぐに芦名の方へとしゃがみ込みその身体を抱き起こす。
しかし、彼女が見たものは。
「え……アシ、ナ……?」
「ちっ……無駄話、しすぎたか……」
口元を深紅に濡らし、衰弱した表情へと変わっていた芦名の顔だった。
「……流石に、もう限界か……」
私はフレイの抱える芦名の片方へとしゃがみ込み彼の顔を覗き込みながらそう呟く。
「げ、限界って……サツキ、どういう事ですか……?」
「……芦名の精神は既に私がズタボロにしてしまった。それに、死なないようにはなっているものの胸に刻み込まれたこの深い傷から、芦名自身の崩壊が始まっている……」
血液が喉に詰まり苦しそうに呼吸をする芦名の喉元へと手を伸ばし私は血液を消した。
既に、芦名の身体は限界だった……。呼吸をするだけでも死が近づいてくるほどに。
「え……あ……サ、サツキ……」
助けを求めるように、フレイは言葉が出てこない中私の名を口にする。
だが……嘘をついても、彼女のためにはならない。
「芦名は、もう何をしても……死ぬ」