第四百三十六話 使命
私の放った言葉に、ウンディーネが絶句する。
いや、ウンディーネだけでは無い。イレティナもフレイも、サラマンダーまで驚愕の色を見せていた。
「え……⁉︎ 分かったんですか、サツキ⁉︎ そんなあっさり……アシナを殺さなくても良いのは、本当に良いんですが……」
他の皆が言葉も出せずにいる中フレイはいち早く思考を取り戻し、驚きながらも下を見て一人実感に浸っている。
……さて、ひとまずやるべき事がある。
ウンディーネは、通り過ぎていった私の気配を感じ取り後ろへと振り返る。
放心状態であったにしろ彼女が気付くよりも先に通り過ぎていった私に、他の皆も何かが起きようとしていることを感じ取っていた。
私は、目覚めつつある芦名の前に佇む。
青色に波打つ海が、降り注ぐ光を宝石の如く反射させている。彼の姿を見つめていると、不意に風が通り過ぎていった。
激戦が先程まで繰り広げられていたにもかかわらず力強く残っていたこの木は、芦名をその梢の影に隠すに十分な葉を蓄えている。瞼を僅かに震わせる芦名には、木漏れ日がポツリポツリと降り注いでいた。
「……起きなよ、芦名」
私がそう言うと、芦名は小さく呻き声をあげて身をよじる。
微かに彼の睫毛の間から白色が見えたかと思うと、弱々しくも芦名はその目を開けて見せた。
「ん……どう、なったんだ……?」
そう呟き、身を起こそうとするが横にしていた身体を仰向けにした瞬間に、彼の瞳には私の姿と揺れながら光を差し込む葉を目にした。
「……はあー……やっと、か……」
彼は、それだけでどうなったのか理解したらしく、僅かにため息を吐くとまた草の生い茂る地面にその身を投げ込んだ。
その顔は非常に疲れていて、こんなこと二度とやりたく無い、とでも言うように嫌悪の見えるものだった。
だが、それと共に、やっと終わったと、どこか安心感のある表情にも見えた。
それは演じるような狂気の笑みでもなく、無理やり感情の起伏を激しくさせようとしたものでも無い。
私が芦名と初めて出会った時と同じ、あの気怠げな目の下にクマを蓄えた苦労人の顔だった。
随分安心しているようだが……私としては、そんなものに構ってあげられる暇もない。
「……まだだよ。フレイ達にも分かるように、しっかりと最後の勤めを果たしてもらわなきゃ」
気付けば、目を輝かせてフレイが私の横にまできていた。ウンディーネも、サラマンダーも、イレティナも。皆、太陽に照らされていた。
「随分……平和な景色ね。嘘みたいだわ。こんな景色が……見られるなんて」