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第四百二十九話 私の物だ

 気付けば、目の前にあった男の体も、鉄臭い血の匂いも、何度もナイフを差し込んで痺れつつあった手の感覚も、全てが幻のように消え去っていた。


 その代わりに、私の視界ははっきりとしていた。

 非常にわかりやすい。あるのは、虚空と、目標物だけだ。


「はあ……はぁ……。……終わりだ。記憶を最後まで見ちまったら、ほんの少ししか良心の無い人間でも正気は保っていられな____」


「____っ!」


 その瞬間、芦名の身体は真下へと吹き飛んでいった。

 それと共に、頭の中に断片的な映像が流れる。見えたのは、目の前で氷を走らせるホークアイと、端にいる弱々しげな私の姿だった。


 これは……評議会で、芦名がホークアイと戦った時の記憶か……。

 ……となると、本当に芦名の記憶を全て見れるのかもしれない。彼の真意も、アレの使い方も……。


「サ、サツキ! やったわね! 平気なのね⁉︎」


「………い」


「え?」


 サラマンダーは私が平気そうなことに心底安堵しているのか、声色に喜色を浮かべて聞いてきた。

 しかし、それには目もくれず、私は自分でも聞こえるかどうかというほどの声で、ボソリと呟いた。


 きっと……今は、喜ぶべき時なのだろう。いつも通りだったら、サラマンダーと一緒に、喜びを分かち合うところだ。


 ……ただ、私の頭に浮かんでたのは、自分の思考とも理性とも関係なく、ただ単純な一つの思いだった。


「……まだ、殴り足りないなぁ!」


 その一声と共に、私の手のひらと目の前に赤い魔法陣が輝きながら浮かび上がる。

 次の瞬間、光が消えると同時に、目の前に芦名が現れた。


 と、思った瞬間に。


「っらぁ!」


「ぐぶぁっ⁉︎」


 今度は突き出すような拳が彼を貫き、遥か彼方へと飛ばしていく。

 だが、既に私の手の甲には魔法陣が浮かび上がり。


「っ……⁉︎ 何が____」


「『怪力』!」


「がっぁ⁉︎」


 一撃を喰らうごとに彼は目の前から消えるが、再び赤い光と共に現れる。

 具体的に言えば、『時空転移』を使い、吹っ飛ぶ芦名を目の前に引き摺り込んでは殴り飛ばしているというわけだ。


 ……正直、こんな事せずとも『破壊』で身体ごと消せば良い。……だが、それでは私の気が治らない。

 芦名は、徹底的にボコボコにする必要があるんだ。


「がっ! うぁっ……! ぐぅっ……!」


「喰らえ! 喰らえっ! 喰らえッ!」


 最早一秒のうちに何度このサイクルが行われているのか見当もつかない。

 最早、私の拳は残像を作り出し、芦名の姿もそこに固定されているように見えた。


 しかし、その時だった。


「舐めんじゃ……がっ! 無え……ぞっ……! 『無限』!」


 芦名が、余力を全て使わんとばかりに、振り絞った声で、そう叫んだ。

 その瞬間、私の身体を覆おうと闇が現れる。既に逃げ道はなく。包まれている状態だった。


 しかし。


「『無限』」


 私がそう呟くと、闇は解け、跡形もなく消え去った。

 開けた闇の先では、芦名が唖然としてこちらを見ている。殴っている間、記憶は絶え間なく私に流れ込んでいた。……もちろん、彼のスキルの使い方だって。


「これはもう……私の物だッ!」


 最後の一撃。肉をほぼ削がれ、骨のようだった芦名は、その頭を宙へと飛ばせていた。

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