第四百二十六話 禁句
「……!」
「肩代わりなんてほざくんなら、それなりに強くなってからにしろ」
身動きの取れなくなってしまった私を尻目に、芦名はサラマンダーへと語りかけつつ力を込めていく。
僅か、ほんの僅かであったが、芦名のつまむ指先から、サラマンダーの刀身へ……ヒビが入っていた。
おかしい……何で芦名はサラマンダーを砕ける……⁉︎ 芦名の肉体は、生身の人間と変わらないはず……。
……そうか……! 今の芦名の体は、記憶から作られた、いわば精神体……、という事は、今は、生身の人間とは言い切れない。むしろ、サラマンダーやウンディーネに近い存在になっているんじゃ……。
……だとしたら、あの尋常じゃない握力も頷ける。今の芦名なら、サラマンダーを砕ける……。
……いや、いや待て! そんな悠長に考えている暇は無い! このままじゃ、サラマンダーは今自分でも言ったが、砕け散ってしまう……!
どうするればいい? 芦名の手を切り落として助けるか……? いや、そうしたら、あの記憶がまた……。 ……っ。ともかく、サラマンダーを芦名の手から離さなければいけない! どうにかして、その手段を見つけないと……!
だが、手段と言ったはいいものの、どうする……? どうすれば、サラマンダーをあの窮地から脱させる事ができる……?
今、握り砕こうと芦名がしているという事は、指の力を抜かせて離す、と言うのは難しい……。
だったら、サラマンダーの方を切って逃すか? いや、駄目だ……! 刀身は『変化』で直せるにしても、マナの肉体が流出するなんて事が起きたらそれこそサラマンダーの命が危うくなる……!
いくら思考をしても、頭の中に渦巻くばかりで、答えの出ない堂々巡りが続く。
それでも、ヒント……。何か、ヒントが、必要なんだ……!
その時、だった。
「っ! あ、っぁ、あああああぁぁあああ!」
「サラマンダー⁉︎」
唐突に耳に飛び込んできた苦痛の声に、私は思わず顔を上げて二人の方を見た。
サラマンダーの刀身に、薄く闇が覆いかぶさっていたのだ。それらは群れを成すように蠢き、サラマンダーの刃を……削っていた。
「弱い奴は、こうなるしか無いだろう。サツキの後ろでお荷物を続けてれば良いもの、をっ!」
「っ……あ、ああぁぁああああああ!」
芦名力を込めるように腕を曲げると、ヒビは一層深くなる。
それに伴いサラマンダーはさらに苦しみの声を上げていた。絶え間なく、全身を嬲られ、齧られるような苦痛にサラマンダーは苦しんでいた。
「役立たずの癖に出しゃばるからこうなるんだ。その姿がお似____」
「誰が、役立たずだって?」
芦名は一瞬の内に聞こえた声に、後方へと振り向いた。
しかし、そこには誰もいない。
「後ろだ」
私が呟くと共に芦名は振り返るが、時は既に遅かった。
彼の両腕は、肘から先が消え去っていた。




