第四百二十五話 代理の可能性
「っ……教える、ったって……」
教えてもらうには、私の攻撃というトリガーが必要……。
そして何より……もしまた私が芦名に攻撃をしたら……今度こそ、芦名が言った通り私は精神崩壊してしまう。
もう、これ以上私は芦名を攻撃出来ない……。
「どうした? お前は仲間が助かることよりも自分が助かることが大切なのか?」
「ち、ちがっ……! そんなんじゃ……!」
「ここで何もしなければ、暫くもしないうちに俺は目を覚ます。そうしたら、俺はお前のいないあいつらを今度こそ徹底的に始末するそのかわり、お前だけはこの空間の中で飼ってやるよ。それが望みだっていうんなら、もうお前は何もするな」
彼の見捨てるような口調に、私は頭に血が上っていくのを感じていた。
駄目だ……挑発に乗っちゃいけない……。
情けない話だが、私には本当にあの記憶の続きが恐ろしくてたまらないんだ……! 例えるなら、締め切り間近まで溜め込んでしまっていた仕事をやらなくても良くなったところで、別の仕事があったことを思い出したような……。
蓋をしておきたい事実。もし、あの空間に戻ったなら……私はそれだけで発狂してしまう。
今、芦名の言葉を否定するためにこのまま攻撃しても、私に勝機は無い……!
……だが、かと言って黙って芦名が目覚めるのを見過ごせば、フレイ達が危険に晒されてしまうのも事実だ。
私は……どうすれば……!
「ゴチャゴチャゴチャゴチャ、うるさいのよ!」
その時、上空から怒りを孕んだ声が聞こえてきた。
不意に横を見ると、居たはずのサラマンダーがいない。そう、上空から落ちてくる声の正体は。
「サツキが攻撃出来ないってのは分かったわ! だったら、その続き! 私が見りゃ良いんでしょおおぉぉ!」
切っ先を真っ直ぐと下へ向け、赤い炎を尾ひれの如く走らせるサラマンダーの姿がそこにあった。
切っ先は迷うことなく、芦名の頭上へと堕ちていく。
駄目だ……! いくらサラマンダーでも、あの感覚を味合わされたらただじゃ済まない……!
「サラマンダー!」
降り落ちるサラマンダーへと、そう叫んだ瞬間。
「かもな」
彼女の刀身に芦名の指先が触れたかと思うと、サラマンダーは、その場で静止した。
芦名は、サラマンダーを二本の指でつまみ、止めていたのだ。
「な……!」
「お前が攻撃すれば、確かにサツキには記憶は流れ込んでいかない。それは正解だ。だがな……お前に、その実力はない」
「っ! あ、ああっぁぁあ!」
唐突に、サラマンダーが呻き声を上げ始めた。
ミシミシと、何かの音が聞こえてくる。
サラマンダーが、砕かれようとしていた。