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第四百二十一話 反動

 芦名は眼を粉々にされ、今までに聞いたことのなかったような悲痛な叫びをあげた。

 しかし、蹲って眼を押さえ込んだかと思った次の瞬間には、激痛が迸り続けているであろうにも関わらず、芦名は血涙を流しながら私の方へとニヤリとした笑みを浮かべる。


「確かに、これじゃお前の姿はもう見えねえな……だが、お前にも反動はあるんだ……。今度は、もっと重いぞ」


 目の前の私に向かって彼がそう痛みを堪えつつささやいた瞬間、また私の意識はその場から離脱していった。


 

 気づくと、またあの場所に立っていた。しかし、最早一般的な家の風景などどこにも無く、蛍光灯が照らす床には一面の血だまりと、彼の母親の黒髪が混じりつつあった。


 その光景に、私は一瞬血の気がひいてしまうが。


 っ……! ……落ち着け、何度も見てきただろう、こんなもの……。それに、これは私がやったんじゃない。芦名の記憶だ。私には一切関係のないことなんだ……。


 そう自分に言い聞かせ、私の締め付けられていた心臓はだんだんと安定を取り戻し始める。

 そう、私は傍観者の立場なんだ……。いくら自分がやったかのような視線になったとしても、所詮スプラッター映画を見ているような物____


「母ちゃーん、なんか叫び声聞こえてきたけどどうしたんだー?」


 その時、階段を降りてくる音と共に、まだ低いような高いような、曖昧な声が聞こえてきた。

 その声に私は再び心臓を締め付けられ、背中にじんわりと背筋が凍るような冷や汗が広がっていくような感覚を味わう。


 その声の主の正体に疑問を持った瞬間、芦名の言っていた言葉がふと頭の中で蘇り始めた。


 最初は、母親を殺した。次に弟を、そして、父を……。

 ……だとしたら、この声の正体は……!


「……ん? 兄ちゃんどうしたん、だ……」

 

 少し気に留めるような風に声をかけてきた弟の声は、一息がつくよりも前に、引きつるように驚愕と恐怖の沈黙へと変わっていった。

 

 ゆらりと身体を振り返らせると、既に彼の顔は一眼見てわかるほどに青ざめていた。

 彼の瞳に写っていたその姿は……返り血に顔面を濡らし、右手にナイフを握りしめる私の……違う! 芦名だ。あれは芦名の姿なんだ……。


 亡霊のように気の抜けた立ち姿をしていたかと思うと、身体は静かに前へと足を踏み出していた。

 その一歩一歩を踏み込まれる事に、弟の顔は冗談でも見せられているかのような引きつった笑みへと変わっていく。


「な、なんだよそれ……兄ちゃん、なんかの冗談か? そんなにカーペット汚したら、父ちゃんが黙って____」


 言い終わることも許されず、弟の腹には深々とナイフが突き立てられていた。

 それが理解できていないのか、拍子抜けしたような表情になったかと思うと、理解するよりも先に彼は地面へと倒れる。


 ……ぅ、あ……


 私の表情は、見なくてもわかるほどに、恐怖に歪んでいた。

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