第四百二十話 集中
「……ふ、はは……」
唐突に、芦名はため息を漏らすように笑う。
「……何だよ」
「正直に言うと……お前と本気で一対一で戦うのは、初めてなんでな。心も弾んでいる」
この期に及んで……まだそんなことを言うのか……。
……いや、だが……今の芦名になら、勝機は私に有るかもしれない。何より、自分の身内をあんな風に殺せてしまう芦名が許せない。少し前の私だったら理由が有ればやっていたかもしれないが。
今の私だからこそ、はっきりと言える。どんな理由があれど……家族を、仲間を自分の意思で殺していいはずがない。
その想いを胸に秘め、笑みを浮かべる芦名とは対照的に私の瞳は静かな怒りを滾らせていた。
「……その減らず口、今塞いであげるよ」
次の瞬間、私は指を鳴らしてサラマンダーを振るった。一瞬の内に残像が見えたかと思うと、一筋の炎が芦名へと迫り来る。
一方遠隔的な猫騙し効果を期待して指を鳴らしては見たものの、芦名は何一つ反応も無く、効果は無かったようだ。
炎は彼の全身を飲み込もうとするが、あえなくして闇に呑まれその姿を消し去られてしまう。
……しかし、それも予定の内だ。
「『炎閻火柱』」
その呟きと共に、芦名の真下から炎が噴き上がる。
指を鳴らした時に、予め『変化』と『時空転移』であそこに起点の立方体を設置しておいた。
円状になぞった内側が火柱となって噴き上がる。それに時間差をつければ一撃必殺で相手は火の海に飲み込まれると言う寸法だ。
だが。
「ま……だろうな。二撃めが来るのはしっかり予想していたぜ……だが、分かっていれば『無限』で封じ込めるだけ_____」
「だろうね」
そう私が呟いた時、すでに私の身体は芦名の目の前へと移動していた。
芦名が火柱を防御するのは彼が人間なら当たり前の話だ。どんな土壇場だろうと、二度同じ失敗はしないぞと注意するのが普通だろう。
しかし……それがただの目隠しでしかないと言うことまでは、あの短時間では予想できなかったようだ。
「『破壊』」
「がふっ……⁉︎」
私の手のひらに浮かぶ黒い球体は、私の手が芦名に近付いただけで彼の腹を粉々に貫いた。
その痛みについに芦名は笑みを浮かべることを忘れ、怒りに満ちた目で私を睨み付ける。
……やっと、普通に睨みつけられるようになったか。先程よりかは断然不気味じゃない。
戦う時にだけ、どうして君はそうなるんだ……。
……でも。
「その目も危険だ」
サラマンダーを一瞬手放し、私は右手にも黒い球体を生み出す。
手のひらは彼の顔面を撫で付けたかと思うと……通り過ぎた後には、彼に目は存在しなかった。
「っ……! が、あああああっ!」
「もうそれで減らず口は叩けないでしょ……君は、『無限』を扱う『眼』を失った」