第四十話 捕縛
「……」
給仕?はなおも黙り続ける。ピンと張り詰めた空気が会議室を包み込み、私達はそいつの動向を伺う。
突如、給仕?はドアへ踵を返し走り出す。
奴はこの会議室から逃げようとしていたのだ。
「おい、待て!」
私は椅子を蹴って立ち上がりすぐさま追いかける。
『神速』を使い私は廊下を走り抜ける。真っ直ぐ前だけを見つめ、その先にいる給仕?を追い上げた。
給仕?は私に服の襟を掴まれ動けなくなり、その場でバランスを崩す。
流石にこの場では殺せないので、私は足払いをして給仕?を床に叩きつけ動けないように足で踏みつけた。
「ふぅ……やっと捕まえた……。さ、君の正体を明かしてもらおうか?」
私はそう言いながら『万物理解』を発動させる。
『こいつは?』
『カラロッタ・サペンディア。年齢23歳。女性。生年月日は……』
『そこまではいいから』
「…………」
さて、名前の照合でもしますか。
私の先程の問いに彼女は未だ黙り込んでいた。
「……カラロッタ・サペンディア」
私がその言葉を呟くと彼女は予想外の事にこちらへ首をグルリと向け驚愕の表情を見せる。
「誰が動いていいと言った?」
「がっ……!」
私はこちらへ首を向けていたカラロッタの頭を踏み抜く。
カラロッタは激しい振動を頭蓋骨に与えられ濁点がついたような呻き声を上げる。
「君のこと位すぐ分かる。問題は君の知っている情報だ」
私はカラロッタの呻き声を気にすることなく、つらつらと喋る。
すると後ろから複数の足音が聞こえてきた。
「サツキ!捕まえたんですか!?」
フレイ達三人が後ろから追いついて来たようだ。
「うん。こいつ牢屋に入れといて。『蜘蛛糸』で捕縛は出来るから」
私は手から蜘蛛糸を出し彼女の手足を縛り付けて担ぐ。
上ではカラロッタがなおももがき続け、持つのが面倒くさい。
「くっ……!私は何も言わない!女一人忠誠を誓わせられないと君主の顔に泥を塗るわけにはいかない!」
そんなことを言いながらじたばたするのでうっかり地面に落としてしまった。
……エルゲに任せればいいか。
「そうかい。だったらそう思っていればいいさ。……エルゲ、連れて行って」
私がエルゲに顔を向けながら地面に投げ出されたカラロッタを指差すと、エルゲは何も言わず頷きその場をたった。
私は少し静かになった廊下を見渡す。赤い絨毯、赤い壁。……どこを見ても赤が目立つ。
「そう言えばウンディーネは?ここには居ないみたいだけど……」
私がそう呟くとフレイは少し困ったような顔をした。
「ああ、それが……。走るのは嫌だって言って来なかったんです」
ええ……。薄情だなあ……。
私はウンディーネの行動に苦笑する。
「それで……情報を知ると言ってもどうするんですか?」
「それは考えがあってね……ひっひっひ……」
私はフレイの質問に口角を上げ笑い声を上げた。
「それは……何を作っているんですか……?」
借りた部屋の中で、私は蜘蛛糸を編んで紐を作っていた。
古来より人に情報を吐かせる時はあるやり方を取っていた。
その中でも私が気に入った方法がこれだ。
「四肢の先を縛って空中にぶら下げる拷問に使う紐だよ。拷問を受けている方は眠ると紐が少し下に下がる。
下に下がったところで身体に当たるように棘が設置して眠れないようにする奴だよ」
私が紐を作りながら横目でフレイの方を見ると、明らかに引いていた。
「なんだよ、盗賊の頭だって正義は一側面だって……」
「人道的な問題ですよ!確かに割り切る事は決心はしましたけど、流石に拷問は駄目ですよ!」
私は口を尖らせて言うと、フレイに応酬するように言い返されてしまった。
まあ誤魔化そうとしていたのは事実だし、フレイの方が正論は正論だ。
「わかったよ、だったら他にもやり方はあるさ」
そう言って私はあるところへ向かって行った。
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