第四百十四話 撃ち合い
次の瞬間、私の腕は目の前から消えた。
その矢先視界がブれ、無数の炎の斬撃が彼へと襲い掛かる。先程よりもはるかに猛り燃え上がる炎の群れに、芦名は少し視線をやると。
「『無限』」
暗闇が盛る炎を袋のように包み込み、くるんだ炎ごとどこへとも無く消えていく。
それを目にした瞬間、腹部に異様な感覚がもたらされた。
その違和感に眼下の腹へ目を移すと、巨大な鉄の柱が腰から肋骨にかけて身体を撃ち貫いていた。
しかしそれも一瞬の出来事であり、柱は私を更に貫こうと回転を始める。
だが、黙ってむざむざと真っ二つにされる気は無い。
「『時空転移』」
その一声と共に、私をえぐり取ろうとしていた柱は一瞬にして消失する。
空いた隙間は少しの間も無く『変化』で元通りとなった。
「……」
「……」
私と芦名は互いに睨み合い、相手の出方を伺う。
しかし、先程の一手で今まで通りでは無駄な攻撃に終わると私は思い、攻撃は沈黙した。
芦名も沈黙を続け、静かに、しかし決して穏やかでは無い雰囲気を纏っていた。
ここは芦名の空間だ……。彼が一言無限と言えば、一気に集中した削り取る力が獲物に群がるピラニアのようにあらゆる攻撃を喰らい尽くしてしまう。
私にそれを向けないのは……フレイと私の強行攻撃で私の治癒力を十分に理解しているからだろう。逆に下手に動けば、芦名の方が致命的な隙を生み出しかねない。
だとすれば次に芦名が攻撃をするのは、何か勝機がある時だ……。それまでに、私も彼の『無限』を突破しなければならない。
……何か、突破口はないものか……。
精霊剣技は普通に使っても芦名には届かない。かと言って私の持っているスキルを使ってもどうだろうか……。『破壊』は……、駄目だ。あれは破壊エネルギーの塊であって、物理的に存在し得ない力とは違う。
『概念破壊』なんて代物は使えないし……『概念変化』も、世界自体が削り取ってきてしまってはせっかく作った新たな世界も押し負けてしまう。
良い考えが浮かばない中、私の頭の中に不意にマナティクスの顔が浮かんだ。
一体何故なのかは……わからない。もしかしたら彼女が帯びていた光が今でも救済の象徴として頭の中に残っているのかもしれない。
しかし、理由がどうであれ私の頭の中には、マナティクスの言葉が浮かんできた。
フレイについて語っていた、あの言葉だ。
『フレイの力は、神の力に近い。私が干渉したからか彼女のマナの扱いも変質したのだ』
フレイの力は……強力だ。固形化したマナ、いつでも、どこへでも好きなものを作ることができる。
……いや、待てよ。動かすことはできなくても……作るだけなら、私にも……。