第四百十一話 殺人鬼
「……?」
「まだ分からねえか? お前やフレイのいつ目覚めるか分からない気絶とは違って、俺は最小限の時間気絶するように調整してあるんだよ。……ま、体感十分かそこらってとこだ。目覚めた時には……あいつらを纏めて始末してやる」
感情の読み取れない表情で、芦名は淡々と語っていく。
しかし、私は彼が皆に危害を加えないように、しっかりと対策を講じてこちらへ来た。今更芦名の行動に意味はないはずだ。
「どうかな……戻ったらきっと、ウンディーネが君を内部から破壊するよ。マントを動かす暇もない間にね……」
私は、未だ警戒と恐怖が収まらないままで有ったが、はっきりと芦名に言ってやった。
超回復とか、超防御と言った力が無ければ、生身の人間は内部に潜ったウンディーネへの対抗手段は無い。
それは、芦名だって十分にわかっているはずだった。
しかし、それでも、その口元には僅かな微笑が称えられていた。まるで何の問題もないかのように、むしろ私を馬鹿にしているのではと感じる程に、余裕を持った笑みだった。
「じゃあ、何で俺は今ここにいられるんだ? 気絶する時に俺が少なからず動いたことぐらい、お前だって予想できるだろ」
「……それは……」
「俺が速すぎたってか? お前は既に俺の動きを見切った上であいつらに任せたはずだ。実際、一ミリでも動いた瞬間に全員攻撃開始……なんてなったら、流石に俺も身が持たなかったな」
……何だ? 今芦名は何て言ったんだ?
彼が少しでも動いたらすぐにでも殺していいと、皆に伝えたはずだ……なのに、今芦名の言っていた言葉は、まるで____
「お前の仲間は……本当にいい子ちゃんばっかりだな。ちょっと一緒にいただけで情が移っちまって、俺を殺せなくなるなんてな……」
「っ……!」
その瞬間、私は絶句した。
フレイ達は、躊躇ったんだ。芦名を殺すことに戸惑って、ナイフを振り下ろす手を、刺さる直前で止めてしまったんだ。
「この前お前は俺の事件を知っているって言っていたよな。俺が二十七人殺したって事件。……でもな、お前ニュースしっかり見てねえだろ。あん時一番話題になったのはそこじゃねえ。俺が一番目に殺したのは母親だ。次に弟、犬、最後に昼に帰ってきた親父。もう忘れちまったが、あの日は何かの記念日だったらしくてな。パーティー用のでけえ寿司の入れ物を両手に抱えて帰ってきたんだ」
「……何を……」
「最初の一手で殺すのを躊躇っちまった相手はな、もう二度と殺せねえんだよ。純粋な殺意は二度と抱けない。だから下手に手加減して相手をもっと苦しませちまうことになるんだ。……もっとも、俺はそんなヘタレにやられるヘマはしねえけどよ」